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幸せってなんだっけ?

幸せについて 谷川俊太郎

出版社 :  ナナロク社; B6 変形版
発売日 :  2018/11/22
単行本:  112 ページ

映画やドラマでは、どちらかというとハッピーエンドが好きで、極端なバッドエンドは避けてしまう。児童文学の『ごんぎつね』やビヨーク主演の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」も苦手だ。なぜハッピーエンドが好きなのか自分で考えたことはない。幸せな気持ちになれるからだろうか。

「幸せって何だっけ」という歌があったような気がする。本当に「幸せ」とは何だろう。
あまり考えたことがなかった。「幸せ」の代わりに、満たされているとか、元気とか、満腹とか、不安がない、今日は良かったなど、他の言葉で置き換えていた。負の要素が少ないと、とりあえず「幸せ」のような感じがする。

世界には三大幸福論というのがあるらしい。ラッセルの『幸福論』。 もう一つはフランスの哲学者アランの『幸福論』。 三つ目はスイスの哲学者カール・ヒルティの『幸福論』で、アランの『幸福論』は読みかけて挫折した思いがある。幸福について考え続けている人がいるというだけで感動する。私自身は、「幸福について考えることが無いということは、幸福なことかもしれない」ぐらいに思っている。

大好きな詩人の谷川俊太郎の本に『幸せついて』というタイトルの本がある。
20歳前後でデビューして以来傍目には、順風満帆、幸せ以外に何があるのかという詩人谷川俊太郎が「幸せについて」楽しげに緩やかに時に辛辣に書き記した一冊。
幸せについて語ることが許されるのは、「苦労を重ねたものだけだ」というひがみ根性の強い私が、ふっと立ち読みして、詩的で含蓄のある言葉が体中に染みわたり、ジーンとした心で思わず買ってしまった。
想えば「幸せ」を一番知っているのは、幸せな人かもしれない。タイトルも『幸せについて』で「幸せになろう」とか「幸せの法則」という啓蒙書とはまったく違う内容。あらゆる方向から幸せについて思い巡らせた言葉が、美しく散りばめられている。読んでいるだけで、幸せが何か分かったような気になる。

『コトバには意味がつきまとうから、不幸せになりやすい、音楽には意味がないから、幸せになりやすい』
P.32

という言葉にはハッとする。確かに音楽には幸不幸がない。そういえば音楽にあるのは、楽しさや静けさなど不幸から遠い世界だと妙に納得する。『幸せについて』読み進むうちに何度も心の琴線に届く言葉と出会える。
あとがきに

「最近歳をとってきたせいか、過去も気にならなくなったし、未来も気にならなくなった」

と書かれている。ある程度の境地に達した人が、「幸せについて」思いを巡らせた言葉は、私の心の琴線に穏やかにふれてスッと沁みとおり無理がない。続けて「つまり、過去が気にならない、未来も気にならないで、『いま・ここ』にある。これが、僕が考える幸せの基本形です。」に谷川さんの気づきの深さを感じる。「いま・ここ」にあることを「幸せの基本形」と書くあたりはさすが詩人と感じ入ってしまう。
これがまさに晩年の境地か。詩の達人は人生の達人でもあった。

「今を生きる事が、最高の幸せ」と書かれた本は多いが、「幸せの基本形」と書かれると、心がザワザワとして、そしてなるほどなと納得してしまう。100ページほどの本なので、持ち歩いて、パッと開いたところを読み始めても楽しいと思う。秋の一日、海風を受けながら、うつらうつらしながら読み進むのも良いかもしれない。

人から「幸せですか」と聞かれると、「いや~」と答え、「不幸せですか」と聞かれると「そんなことはないです」と答える。これが「幸せの基本形」のスタンスかもしれない。
「幸せになること」はできないが「幸せでいること」は出来る。だんだんとそんな気になってくる。「いま・ここ」にあることは、「幸せの基本形」で、究極の形なのかもしれない。
占いで「晩年幸せになれますよ」と言われたことがある。晩年の幸せについても、消極的な小春日和のようなイメージしか湧いてこない。それに晩年って幾つからだろう。もう晩年のような気がしているのだが。晩年って何年生きられるのだろう。


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