ダム

私は犬を飼っている。
名前はガロン。


ガロンはもともと捨て犬であった。


学校の帰り道、雨が降るいつもの通学路の道の端っこで雨に打たれて震えていた一匹の犬がいた。
それがガロンだった。


雨に打たれていたガロンを見た私はすぐに濡れたガロンを抱きしめ家に持ち帰った。


犬を飼うことに反対だったうちの親だったが、ガロンの潤む瞳を見てからはなにも言わなくなった。

ガロンはうちの家族になったのである。


ガロンは他の犬とは違う。

ガロンは泣くのだ。
鳴くのではない。

"くぅーん" や"ワン"などいわゆる犬の鳴き声を発することはなく、瞳から涙を流すのだ。


しかし、涙を流すこととガロンの想いは連動しない。
この涙は、私の感情に呼応して涙を流すのだ。


私がサッカーの大会で準優勝で悔し涙を流したとき、彼女に振られたとき、高校受験に失敗したとき、あらゆる場面で私が涙した時に、ガロンは泣いた。
不思議とガロンが泣くと私の涙は引いていった。


この現象は不思議ではあるが、自分の悲しみを共感してくれる存在がいることに感謝を感じていた。


今日、ガロンは亡くなった。
年齢は19歳、老衰によるものだ。
長生きした方だ。


「今までありがとう。ゆっくり休めよ。」


と心で問いかけ、ガロンが眠る棺を軽く撫でた。
思い出すのはガロンと共感した悲しいことよりも、共有した楽しい時間であった。

私はフリスビーで遊んだことやキャンプに行って一緒にボートに乗ったことを思い出しながら、涙は私の目頭から頬を伝ってひとすじの川を作った。

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