見出し画像

酒ときどき海 〈那覇〉 

(2020年12月)

微妙なご時世に恐縮しつつ、沖縄本島へ3泊4日のGo Toトラベルをしてきた。とある夜中に目が覚めじゃらんネットを繰っていたところ、ダイビングパックのお得すぎるプランを発見してしまったのが事の発端である。当初は渡嘉敷島ステイを考えていたのだが、命綱の高速船マリンライナーとかしきがドッグ入りしてしまったため断念、那覇ステイで慶良間へ通うプランに変更した。前日まで仕事が立て込んでおり、本当に行くのか、行けるのかという半信半疑な中、例えば足の爪を切るのも忘れるぐらい何気なく出発してしまった。天気予報で薄々気付いてはいたし、生粋の雨女としては特段驚きも失望もないのだが、到着するとあいにくの雨模様である。何となく来た結果、ものすごく何となく迎え入れられた感じがした。よく言えば私と那覇はとてもカジュアルな関係性のようだ。

まずは食の追求に走ろうと、ホテルに着くなり周辺検索と計画立案に励んだ。朝は早いし昼は船上、期待されるのは夕食だ。そんなこんなで食が本家でダイビングが分家のようなブログになってしまった。

ちなみに今回の宿泊先のコンドミニオマキシはプラン優先で決めたのだが、マンションの一室のような広々とした部屋にベランダはもちろん、洗濯機や乾燥機まで付いているというダイビングステイにぴったりの高スペック宿であった。

Day1

小桜(夕食)
何事も最初の一手が肝心だ。空いていそうなお店ではなく、とにかく一番行きたいお店からポジティブに挑んでみようと目をつけたのがこちら。電話をするといきなり予約が取れ、幸先の良さに小躍りした。

18時の開店と同時に訪問し、一階カウンター席に収まった。とりあえずビールを飲みながらメニューと向き合う。半分ぐらいはハーフサイズが選択できるという、おひとりさまにも優しい仕様である。そう思って見渡すとカウンター席にはおひとりさまが多い。さっそくスーチカーのハーフとジーマミー豆腐の天ぷら、アサリの泡盛蒸しを発注した。突き出しのもずくが胡麻油的なもので塩味に味付けしてあってとても美味しい。貪るうちにスーチカーが登場した。

燻していない高級ベーコンのような味わいで、少しレモンを絞るとビールにぴったりである。塩でいただくジーマミー豆腐の天ぷらは、想像した通りのカリフワトロだ。そしてアサリの泡盛蒸し。レモンとニンニクが効いて異常に味わい深い。ここまで来るとすみやかに泡盛が必要だ。ドリンクメニューに目を向けると、泡盛は40種類ぐらいから選べて、一律一合900円で氷と水のセット付きのようだ。素晴らしいシステムである。久々に春雨をオーダーして香ばしさとアサリの残り汁のハーモニーをしばらく楽しんだ。まさに至福である。

締めはどこでも食べると決めているソーメンチャンプルー。具材なしのシンプル系と思いきや、下のほうに茹でキャベツが敷かれていた。ニンニクが効いて少し甘めで洋風と言えなくもない。どの料理も伝統の沖縄料理に丁寧にひと工夫加えている。こだわりの食器は目でも楽しめ、心躍る時間であった。まぎれもない名店である。

Day2

金壺食堂(朝食)
「海が時化すぎているため午後からでないと船が出せない」との連絡が入り、これ幸いとばかりにいそいそと朝食を取りに出かけた。やちむん通りから公設市場へ向かう途中の路地裏にある台湾料理の食堂で、朝は〝精進バイキング〟なるものが600円で食べられるらしい。

お店に入ると年季の入ったローカル感に思わず気圧されたが、穏やかなお父さんが「お金はあとでいいですよー」「島豆腐もあるからねー」と優しく声をかけてくれ、すぐさまほっこりした。野菜のおかずが10品弱とお粥、ごはん、汁物が並んでいる。いたって健康的なラインナップだ。ホクホクと取って着席する。どれもこれもが優しい味だ。何より朝の胃に染みる魚介系の出汁のきいた白菜のスープが最高である。可能なら毎朝来たいと思った。

ちなみにここの名物はずっしり大きなちまき280円。これは昼食用にテイクアウトした。船上で開くと、月桃のようないい香りのする葉っぱにくるまれ、豆と肉がぎっしり詰まった絶品であった。これはぜひ那覇ダイビングの定番にしたい。

しまぁとあて(夕食)
昨日の小桜の向かいに「国際通り屋台村」なる施設ができていた。恵比寿横丁に代表されるような近年流行のパヤパヤ系屋台村だろう。一度は行っておくべきだと判断し、中でも評価が高めのこちらのお店に入る。「うちの店はコレで有名になった」と店員さんが豪語するので、まずはつけもずくをオーダーした。もずくを豚ダシの温かいつけ汁につけてズズズっといただく一品で、確かに美味しい。こんもりした一山をあっという間にたいらげてしまった。

とりあえずのビールを飲み干すと、カウンターに並ぶ2本の瓶に釘付けになった。前日酒屋で買おうかどうしようか迷った多良川のラムと、まさひろ酒造のジンである。味見がしたいと言うと、ショットで用意してくれた。旨い旨いと味わっていると店員さんが訝しげな様子になる。しばらくして意を決したように「もしかして業界の方ですか?」と聞かれた。何業界を思い描いていたのかは知らないが、もちろん丁寧に否定する。その後はなるほど単なる酒飲みか、とセルフ合点したようで、自慢の泡盛を出してやろうと提案された。どんな泡盛が好きかと聞かれたので「クセのあるやつを」とオーダーすると、「酒は人を映す鏡ですから、お客さんはクセのある方なんでしょうね」と名言のような失言のようなことを言われた。

それからは泡盛祭りである。甕に付いたカビが独特の土臭さを放つ『白百合』や、傷まないぎりぎりラインの4日間寝かせた麹が強い風味を生む『よっかこうじ』、オーク樽貯蔵の『初垂れ』、一杯3,000円の『沈黙』。沈黙は隣のお客さんに奢ってもらった気がするが、こんな屋台村でお会計は7,000円を超え、伝票を見て思わず「ぎゃーっ」と叫んでしまった。燻製盛り合わせをツマミにひたすら泡盛る。脳みそが豆腐ようになってしまいそうな泡盛ナイトだった。

Day3

ファミマの朝すば(昼食)
気になっていた一品を海へ持って行った。お湯を入れるだけでかなりのクオリティのそばが出来上がるというものだ。少なめの生麺の下の方にゼリー状のスープが配置されているので、粉末やかやくを袋から出す必要はなく、スープにインスタント感もない。この麺なんだか舌が覚えてるなと思ったら、天下のサン食品製であった。仕上がりに納得する。ちなみに空港のファミマでも売っているので、2日間で食べ切れる量までなら空輸可能である。もしかすると冷凍で延命もできるのかもしれないが、それについては次回検証したい。

なんじぁぁれ(夕食)
仲良くなったダイバーさんたち3人と打ち上げをしようということで、宜野湾ではイチオシの居酒屋だというこちらに訪問。幹線道路から一本入った住宅街にある潰れそうな…いやいい感じにうらぶれた味のある店構えである。

4人いると色々食べられるのが嬉しい。定番のソーメンチャンプルーは汁だく系で濃い出汁の風味が最高すぎたのでおかわりした。久々のヤギ刺しはやはりヤギである。「動物園を食べている感じ」とコメントした人に激しく同意しつつ、さすがの私も味わいきれずに泡盛で流し込んだ。非常に稀な食材である。海の話をツマミに何時間でも盛り上がれるのが海仲間の妙である。よかばんなーと満足しつつタクシーで帰る。那覇までは夜間でも3,000円程度である。


ダイビング
ついでのように書いてみるダイビングは、結果的には慶良間では1本も潜れなかった。2日間とも空は雨模様の海は荒れ模様、2日連続チービシ、2日目に至っては慶良間の手前で方向転換し、同じポイントで3本ずつ潜ることになった。しかし最大の目的は果たすことができた。それが、これ。

ダイビング業界ではロクハンと言われる6.5mmのあったかスーツを新調したので、年末に向け一度慣らしてみたかったのである。分厚いということは浮力があるためそのぶんウエイトが必要なのだが、いったい何kgあれば潜れるのか見当もつかない。このドキドキの解消と暖かさの体感がテーマであった。そういう意味では寒空はうってつけで、早くも実力のほどを体感できた。

もちろん亀には何度も会えて何度も悶絶するのが私のダイビングの常である。太陽のキラキラ感は欲しいところだが、透視度はまったく問題ないので贅沢は言うまい。

神山ラビリンスというポイントは洞窟がいくつもあり、複雑な地形に現地のガイドさんもよく迷うらしいのだが、幻想的な風景が楽しめる。

天気は悪くてもマクロは楽しめる。小さなウミウシや、穴の中のギンポ、珊瑚の合間のカニなどを夢中で探した。

風はビュービューで船は大揺れであったが、しっかりと楽しめた。今回のショップは宜野湾のチアーズ。控えめながら良心的で細やかな気遣いが心地よく、一見さんでも心穏やかに過ごすことができた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?