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情報と仕事量のバランスと、組織デザイン

前回、「失敗の本質」の一部内容を通じて、「官僚・人的ネットワークハイブリッド組織」というものを紹介しました。(前回の記事:いらすとで学ぶ「失敗の本質」)
本記事では、この「エセ官僚組織」とも言える組織構造について改めて考察して、
・組織デザインによって情報や仕事の偏在がコントロールされること
・組織デザインおよび「組織の今の形」は成員各自の行動によって変容すること
・仕事が集中しすぎる・個人への強すぎる依存を避けるための組織デザインが存在すること
といった事実の指摘を行います。

# エセ官僚組織の本質的な問題点「組織学習能力の欠如」

エセ官僚組織、こと官僚・人的ネットワークハイブリッド組織の模式図は以下のようなものです。

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図の中に、赤字で問題点となった箇所を示しています。これらは、本来の官僚組織とは異なる箇所です。トップのリーダーシップに基づく強い命令を実行できない、判断がトップ以外で属人化している、信賞必罰が正しく行われないことでこの構造をさらに強化する。いずれも、直感的には問題であるように思えます。
しかし、これらの属性が直ちに失敗とつながるという事ではなく、これを失敗と結びつけることには実は論理の飛躍があります。つまり、判断が完全にトップに依存しないという意味で現地即応が行える可能性もあり、また現場の人がトップよりも優秀であれば正しい判断をする可能性はあり、個人の失敗を必ずしも追求されない事によって心理的安全性が担保され、失敗を過度に恐れずに全力で職務を全うできる。このような組織にも、成功のパターンもあり得るのではないか、という事です。
実際、このような組織構造が定着したことも、何らかの合理性があったという捉え方はできますし、外的要因に対して適応した結果がこのような組織構造であったと考えることもできます。
「失敗の本質」においては、それをもう少し丁寧に説明していて、最終的にこのような組織構造によって、組織全体としての柔軟な学習能力が失われた事で、戦時中の流動的な状況に適応できなかったと指摘しています。
つまり、このような組織構造によって、情報が偏在している状態で、各統合機能(判断者)が全体の状況を踏まえない局所的な情報で判断をすることで、組織全体での知見が活かされませんでした。また、その判断の結果が必要な人に共有される事もなく、場合によっては人的ネットワークの維持を優先して情報が握りつぶされたり改ざんされたりする。こうした情報の偏在・改ざんによって、新しい・正しい情報に応じた組織的学習が行われなくなりました。
一方で、組織の構成員が何も学習をしないのかというと、そんな事はありません。この場合、構成員は新しくない/正しくない情報に基づいて個としての学習を進めることになります。例えば、過去の偶然的な成功や、それが必然であったとしても現状では適切でない成功を過剰に美化して、金科玉条として半ば精神論的なものとして学習を行う、というような事になるのです。このように考えると、戦争中に我々の目から見ると過剰に精神論に集中していたように見える状況は、組織の構造によって必然的にもたらされたようにも見えてきます。これが、組織的な学習能力が失われた状態ということでした。

# 組織のデザインという考え方

組織学習能力の欠如をもたらしたのは、情報の偏在・改ざんでした。
つまり、組織学習能力を高めるためには、情報の偏在・改ざんを避けるような組織デザインを考える必要がある、という事になります。例えば極端な例として、徹頭徹尾絶対的な官僚制で、かつ上下の情報連携が緊密に行われていたとすれば、少なくとも上で示したような形式での組織学習能力の欠如は発生しなくなります。もちろん、トップに立つ人が判断のボトルネックになるとか、トップの人の能力によって組織の学習能力が規定されるというような、別の問題が発生する可能性はありますが、このことはまさに、組織のデザインによって発生する問題の量や構造は異なるという事を示しているわけです。
情報の偏在・改ざんが無ければ何でもよいということでは決してなく、他の問題も減らす必要はありますが、情報の偏在・改ざんが限りなく少なくなるような組織のデザインを目指す、という事には意味があるのです。

# 文字通りすべての情報を共有すればよいのか?

情報の偏在・改ざんという事が現在の焦点でしたが、では、組織において、文字通りすべての情報を相互に共有すればよいのでしょうか。これは、構成員の能力なども含めた理想的な状況においてはイエスかもしれませんが、現実的にはノーであるように思われます。
ある個人が処理可能な情報の量には限りがありますし、視野・視座も現実的には人それぞれ異なります。ただでさえ情報量が増えて、メールやコミュニケーションで忙殺される昨今の組織においては、文字通りの意味ですべての情報を共有しても、それを各構成員がうまく使いこなせるとは思えません。それぞれの構成員にとって必要な情報を、相互に過不足無く連携するというのが目指すべき姿であると思います。それを規定するのが、組織のデザインであるということです。
これは組織のデザインを通じて、情報の流通をコントロールするという考え方です。

# 企業の場合にはどうなるか・組織デザインの動的な変化

ところで、エセ官僚組織のような構造は、企業の場合にはどのような事をもたらすのでしょうか。これまでに示した事例はほぼ企業でも当てはまると思いますが、特に一例を挙げるとすれば、仕事の属人化や、優秀な人に仕事が集中するという状況を生みます。
例えば...ある優秀な現場担当者がいると、その担当者はそのうち下剋上を起こして本来の職務を超えた仕事を担うようになります。これは、多くの企業で見られる形ではないかと思います。そうすると、その職務を超えた業務に関する統合機能(情報をまとめて、組織的な行動についての判断を行う機能)がその担当者に属人的に移動します。それによって、その担当者には更に仕事が集まることになり、その優秀な担当者が居る前に想定されていた組織デザインとは異なる形で仕事が回るようになります。
このように、時間が経過することによって、組織構造は当初のデザインを残しつつも変化していく事になります。組織や構成員を取り巻く状況、外圧などによって組織デザインは動的に変化していくということです。ここでは特に、必ずしも事前の想定・設計の通りにはならずに、周囲と相互に反応をしながら変化していくという性質を持っていることに注意します。
これは悪い側面ばかりではなく、現在の状況に適応しているという意味・側面もあります。言い換えると、本来想定されていたデザインでは達成できない業務について、適応的に組織の構造が変化したという考え方もあるわけです。もちろん、組織の構造の変化のすべてが適応という事ではなくて、例えば単に個人的な利得を追求した人が人的ネットワークを形成してしまう場合などは適応ではなく、一般にもっと多様な状況があり得ると思います。とはいえ、組織デザインの変化には決して負の側面ばかりではないのだということでした。
また、この動的なデザインの変化は必ずしも形式的な組織構造には表れないという事にも注意します。つまり、建前上の組織図・体制図には全く変化がないものの、実態としては人的ネットワークによって"バグった"状態になるという事がありえるということです。
「組織そのもの」は組織文化などと同様で、明示・明文化したものがそのまま構造を表すわけではない、という事ですね。

# 個人への依存を軽減・温存する組織のあり方

さて、デザインの動的な変化とは無関係に、個人への依存はしばしば重要な問題になります。通常の官僚制であっても、トップの人間や、それに準じる立場の人間への依存・過負荷はどうしても発生してしまいがちです。これに対して構造的に抵抗した、デザインを持って改善を図った事例の一つとして「失敗の本質」に紹介されているのが、大戦中のアメリカ軍の組織でした。

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アメリカ軍の組織においては、各機能性をもつ人に対して一定の任期を強いて、交代制にする事によって、構造的に優秀な人材の消耗を防ぐようにしました。このような組織構造には、それはそれで課題があるとは思いますが、個人への仕事の集中が継続してやがて個人が消耗する、という状況を大局的に避けられるようにはなっています。
必ずしもこのやり方が答えという事ではないと思っていますが、とはいえ組織のデザインを検討する事によって、問題を解決、または別の問題に帰結させる事が可能になります。
私はこれまで、組織というものの構造が具体的に個人にどう影響を与えるかという事をあまり深く考えて来なかったので、この一連の事実はかなり勉強になりました。

# まとめ - デザインの変化・適応と、それに対する意志

これまでの話を、簡単にまとめてみます。
・エセ官僚組織の本質的な問題は、組織学習能力の欠如
 ・新しい・正しい情報に応じた組織的学習の継続が必要
 ・組織構造によって情報の偏在・改ざんが発生すると、組織学習能力がなくなる
 ・
構成員は新しくない/正しくない情報に基づいて個としての学習を進める
組織のデザインによって発生する問題の量や構造は異なる
組織のデザインを通じて、情報の流通をコントロールする
・組織デザインは動的に変化する
 ・必ずしも事前の想定・設計の通りにはならずに、周囲と相互に反応をしながら変化していく
 ・優秀な担当者が居る前に想定されていた組織デザインとは異なる形で仕事が回る
 ・動的なデザインの変化は、必ずしも形式的な組織構造には表れない
・組織のデザインを検討する事によって、問題を解決、または別の問題に帰結させる事が可能

ひょっとすると、言われるまでもなく自明なことも含まれるかもしれません。しかし、これらの事柄を意識して、このような組織のデザインという目に見えない物が与える影響を考慮した上で、状況に合った組織のデザインを各々が目指すという取り組みには、その取り組み単独でも効果があるように期待されます。
まだ具体性には欠けるかもしれませんが、個人的には重要な気付きかなと思い、まとめました。
おわり。

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