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トーストびより vol.3

これまで作ったトーストのこだわりや青果への愛を綴る「トーストびより」。
vol.3でご紹介するのは、ゲゲゲのトースト、金継ぎトーストです。

ゲゲゲのトースト

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誕生日:2020年4月24日(金)
愛しむもの:マーガリン、「ごはんですよ」(海苔の佃煮)、食パン

「ごはんですよをトーストに合わせると美味しい」という噂を聞て、スーパーで買ってみた。

「ごはんですよ」は桃屋が販売する海苔の佃煮。
観察してみると、個体と液体がまばらに混ざり合うのが面白い。粘液や色合いから、(こんな表現して良いか分からないけど率直にいうと)おどろおどろしさを感じた。

「おどろおどろしさ」でぱっと思いたのが、水木しげる。点描で描かれる渾身の背景は見ていて背筋がゾッとする。形では表現しづらい絶妙な闇や影の世界を、魂でたっぷり描ききる。はっきり言って狂気じみている。あなたは人間ですか、それとも妖怪ですか、と聞きたくなる。

そこで、食材の特徴である「おどろおどろしさ」(※持論)を、水木しげるの1コマでオマージュしてみようと決めた。

作り始めてすぐに、大変なことになるぞ・・・・・・と感じた。
その予想通り、これまで作ったトースト(2021年5月8日時点、100枚超え)のなかで、ダントツで時間を費やした1枚になった。
なにが問題だったかというと、「ごはんですよ」の海苔が想定以上に単位が大きかったこと。瓶の中の無数の海苔から、表現可能な「海苔1軍」を見つける必要があった。トースト1枚を仕上げるために、肩が凝り、精神がすり減る。(ちなみに美大受験で散々デッサンをしてきたので"見た通りに再現する"という点での苦労はない。)

水木しげるに負けない根気で、ようやく完成。
「ごはんですよ」だから再現できる、色の濃淡、太さの抑揚。
「おどろおどろしさ」をかたちにできた。

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そして、楽しみでしかたなかった、トーストの時間。
さて、海苔がどう歪んでくれるのか。マーガリンが溶けてどう馴染むのか。

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字が想定以上に歪んでくれて、嬉しくてたまらない。
マーガリンが黄色く溶けて、年季の入った漫画のようだ。
背景で描いた森の濃淡が複雑になり、より怪しい雰囲気を醸し出した。

モチーフ選びで大切にしていることを、ここで。
ゲゲゲの鬼太郎、浮世絵など、わたしのトースト習慣では、モチーフを使うことが多くある。
これらのモチーフは、食材の魅力を伝えるためのひとつの手段であって、表現の目的ではない。
例えば、「ごはんですよ」から感じた「おどろおどろしさ」の魅力を表現するため、「ゲゲゲの鬼太郎」をモチーフに選ぶ。紫キャベツの断面から見える「軸があり凛とした層」の魅力を十二単で表現する。生ハムの半透明と白い筋を使って、金魚をかたちづくる。
食材の魅力そのものが、トーストづくりの動機となる。

金継ぎトースト

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誕生日:2020年4月26日(日)
愛しむもの:サワークリーム、ケチャップ、食用金箔、食パン

パンの「手でちぎる」という食べ方も、素材のひとつの魅力。
食パンには繊維の方向があるため、ちぎるときの表情がなかなか面白い。直線で破れていったかと思うと、斜めに逸れていく。優しくちぎると細かな繊維が立つし、力強くちぎると直線的に裂けていく。
観察していると、陶器の割れに似ていると感じた。

日本の伝統技法に「金継ぎ」がある。
壊れてしまった陶磁器を、破損部分を漆によって接着し金で装飾して仕上げる修復技法である。室町時代以降、「ありのまま受け入れる」という茶道精神の広がりで、金継ぎに芸術的な価値が見出される。金継ぎの跡を「景色」と呼び、あえて目立たせて、ときの経過や偶然性を愛でる。

今回は、食パンの「ちぎる」という特徴を主役にした。
一度ちぎったパンの断面を少しずらして、食用金箔でつなげる。
一片には、ケチャップで陶器を思わせる模様を描いた。

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焼いてみると、面白い変化があった。
全ての破片に均一にサワークリームを塗ったが、模様を描いた一片だけ熱の通りが違ったらしく、地が白く残った。

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色の違う一片が、より金継ぎに見える。
こんな予想外の面白さに出会えるから、この朝食習慣は楽しい。

次回[トーストびよりvol.4]

田中一光トースト、ブルーノムナーリトースト、花札トーストを紹介予定です。
食パンは山形パンに変わります。

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