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トーストびより vol.7

これまで作ったトーストのこだわりや青果への愛を綴る「トーストびより」。
vol.7でご紹介するのは、グラデーショントースト、ボーダートースト、オポジットトーストです。

グラデーショントースト

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誕生日:2020年5月15日(金)
愛しむもの:サワークリーム、ブルーベリー、食パン

私の朝食習慣のなかでもお気に入りのグラデーショントースト。
ブルーベリーの粒の大きさ・色のコントラスト・がくの形状、硬さ、果肉の色、焼いた時の色の滲み・・・。これらの特徴があってこそ仕上がった一枚。

これまで作ってきた食パン(2020年5月上旬時点)は、食材の特徴をモチーフに置き換えて表現する方向性が多かった。紫キャベツの固く凛とした層が、着物の重なりに見えて。しらすの光沢感が鶴の上質な羽に見えて。このような特徴の連想で朝食を作ってきた。

今回挑戦したのは、食材を観察して見えてくる特徴を、食材そのまま視覚的に伝えるということ。これは、特徴をモチーフで連想するより繊細な表現である。「あれもこれも」と欲張りに食材の魅力を表現しようとすると、結果的に散漫になり何も伝わらなくなる。食材の魅力をシンプルに言い切らなければならない。
加えて難しいのが、モチーフという"絵力(えぢから)"がないぶん、シンプルな中にも華やかさが必要になる点。ここで言う華やかさとは、視覚的な強さ、派手さ、インパクトのことではない。食材が語りかけるパワーで、言うなれば食材の"目ヂカラ"のようなもの。食材の魅力をシンプルに伝える"編集力"と、目を奪うような食材の"目ヂカラ"。この2つが、モチーフのないトーストをつくる上で大切なこと。

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ブルーベリーを見つめる自分の目線を、ぐっと下げてみる。
真俯瞰で観察していたときに見えづらかった、個々の量感の差を感じた。
ブルーベリーの高さをグラデーションにしたいと思い、水平方向に包丁を入れ始めた。

果物の中でも、ブルーベリーに包丁を入れる瞬間は特別にときめく。
カサカサしていて光の一部を吸収するような濃紺の皮から、うるうると果汁が溢れる。皮の濃さとは対照的に、果肉は透明度と光沢感のある黄色。まるで果肉の中から光が差しているような、不思議な感覚に出逢う。

ブルーベリーの高さがグラデーションで低くなっていく。球体が徐々に削られ、最終的にはがくの形状のみが切り取られる。

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横から見ると、黄色い果肉の断面が見える。中心の赤みのある種が、個体によって見え隠れする。
朝5時の青白い光に照らされて、ブルーベリーとサワークリームが静かに輝く。ブルーベリーの高さで作られた滑り台を、朝の空気が滑っているように見えて、心地よさを感じる。

目で十分味わったら、お楽しみの焼く時間。
トースターの中で、ブルーベリーの表面がグツグツと動いた。
中心は、より火が通るらしい。トーストの中心部分から、皮よりも赤みのある液体がじわじわ溶けて広がっていく。

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トースターから出したとき、グツグツ煮込んだブルーベリージャムに鼻を突っ込んだような、甘ったるく強い香りが広がった。
皮の色は濃くなっていて、果肉が熟してパンパンに膨れている。

ひとくち齧ると、サクッとしたトーストの香ばしさのあとに、口の中でもっともっとと広がろうとするブルーベリーの甘さが押し寄せる。
早朝の青白い空間のなかで、ブルーベリーの甘さに心地よく溺れかけた。

ボーダートースト

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誕生日:2020年5月16日(土)
愛しむもの:サワークリーム、ブロッコリースプラウト、食パン

いつものように、青果コーナーを散策する。
葉もの野菜コーナーでなんとなく手に取ったブロッコリースプラウト。彼らの賞味期限がいよいよ迫っているらしく、お手頃価格のシールをべったり貼られていた。

パッケージの側面からスプラウトを眺めたとき、茎の色に驚いた。
遠目では白にしか見えなかったが、葉の近くはうっすら黄緑に、種付近はピンクに色づいている。
黄緑とピンクと白。表面はサテン生地のように、光に当たるとキラキラ光る。
スプラウトの茎をメインに朝食を作ろうと思った。

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茎を触ってみると、キュッキュッと音が鳴る質感。たっぷり張りがあって、ハサミでカットした断面から水っぽさを感じる。そこからマイナスイオンが出ている気がしてくるほど。

黄緑とピンクのグラデーションをした、チャーミングな茎を主役に。
キラキラ光る表面を、どの角度からもしっかり見せたいから、茎の面で方向違いの切り返しを作る。
ハートの形をした葉っぱは量を絞って、存在感を出しすぎず。

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お皿を動かすと、キラキラ光る面が変わって、黄緑やピンクの色濃度も変化して見える。ハート型の葉っぱは、正面から光を受けて、それぞれが胸を張っているように見えて愛らしい。

そしてお楽しみの焼く時間。

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サワークリームの地面に埋れていくように、スプラウトが萎んで沈む。より複雑になった反射が、油絵のマチエールのようにも見える。
同じ方向を向いていたハート型の葉は、上下に倒れた。「自分は上」「自分は下」みたいな意思があるみたい。まるで踊っているようだった。

いつもよりも味が薄いかなと思って慎重に齧ってみたけど、茎の風味がダイレクトに鼻に刺さる。それと同時に舌の上で感じる確かな味わい。素朴な味を感じられる喜びで、徐々に笑顔になる。
スプラウトは、息遣いを優しくさせる野菜。

オポジットトースト

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誕生日:2020年5月17日(日)
愛しむもの:サワークリーム、うずらの卵、食パン

食材の特徴を活かすこともあれば、特徴をあえて逆手に取ってみたりもする。

白身のなかに黄身がある卵。黄身が白身に守られている構図で、そのぶん黄身には特別感を感じてしまうのだけど、私は白身が大好き。
食べ物としての味や食感はもちろん好き。焼いたときに純白になる姿には毎回驚かされる。(こんなことある?くらい毎度白い。なぜ濁らない。)茹で卵を剥くとき、少しザラっとした質感の殻の隙間から白身の光沢が覗くのには、にんまりしちゃう。その間にある半透明な薄皮も好き。(あの質感がたまらない。それと、どうして君はそこに挟まるのかね。)爪を立てるとすぐ裂けてしまう、固いのに脆い不思議な質感も魅力的。
・・・白身を語ると長くなるのでこの辺で。

そんな魅力的な白身を主役にしたいと思って作ったのが、オポジットトースト。
オポジットは、白身と黄身の(いろいろな意味での)立ち位置を反対にする、という意味。

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これが予想以上に難しかった・・・。これまで作ったトーストの中でも上位に入る苦戦具合。
黄身が入った状態で白身をカットすれば安定するのに、当時の私はなぜか白身を半分にした状態で早速黄身をくり抜いてしまい、結果、脆い白身が包丁とは別の方向に裂けまくる。(今になったら分かる手順も、当時は覚束なくて・・・。おかげさまで、お供のサラダが切り損ねた白身によって豪華になった。)

トースターから取り出すタイミングが良かったらしく、黄身の表面には絶妙な焼き色。白身の食感が楽しい、白身が主役のトーストに。

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ちなみに、ここで使っている紫の個性的なお皿は、モロッコ旅の陶芸工房で買ったもの。

モロッコの街中での買い物は、値段が書かれていないことが多くて、基本的に交渉で決める。最初5000円と言われたロバの置き物が300円になった。(商売は売人と客による価格決めセッション。この値切りエピソードは面白すぎるので、私に会った方は是非聞いてください・・・。)紫のお皿を買ったときは、ちゃんとした工房だったから定価だったと思うんだけど。

脱線しました。

次回[トーストびよりvol.7]

次回は、VOGUEトースト(VOGUEパリから連絡が来て私の目が点になる件)と、犬張子トーストあたりを紹介予定です。

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