阿栗

東京なんちゃら大学博士後期課程で香港文化を研究し、博士号を取得。自称ポップ・アンソロポ…

阿栗

東京なんちゃら大学博士後期課程で香港文化を研究し、博士号を取得。自称ポップ・アンソロポロジスト。他称香港B級文化史研究家。

マガジン

  • 至少有歌:香港カントポップの現在

    香港の広東語ポップス「カントポップ」の最新の動向について不定期にまとめます。

  • 書評

  • 時事

  • 未定義的衝撃:Mirror現象と国安法時代の香港カントポップ

    続・一代一聲音〜時代の声、時代の詞〜:香港カントポップ概論

  • カメラ/写真

最近の記事

【新歌推介】 Novel Flash〈That's My City〉ft. PetPetShawn:国際都市の裏側を描くラップ 【香港音楽】

香港の新興ヒップホップレーベルYack Studio所属のラッパー、Novel Flashの新曲。彼の新作EP《A.I.O.N》の収録曲。別のヒップホップレーベル「摩四青年」所属のラッパーPetPetShawnが客演で参加している。 「それが俺の街だ」というタイトルの通り、香港の実情、特に経済格差の問題が時にユーモアも交えながら歌われる。 ミュージックビデオの冒頭にサンプリングされているのは、香港の経済状態の不公平さを訴える1999年のテレビドラマ『創世記』の名ゼリフだ。

    • 中国大陸製「エセ広東語」歌謡に学ぶ正しい「カントポップ」の作り方(終):カントポップは誰のものか

      このnoteでは、これまで3回にわたって、中国大陸の非広東語話者によって作られ、歌われる「エセ広東語」歌謡を取り上げてきた。 それらの楽曲を「エセ」たらしめているちょっとおかしな部分を分析することで、反対に「正しい」カントポップの構成要素を考えようということで、発音上の規則などに関わるさまざまな特徴をとりあげてきた。 最終回(予定)となる今回は、そういった細かい話ではなく、少し大きな問いを考えたい。 つまり、 「なぜこんなにたくさんエセ広東語の歌が作られているのか」

      • 中国大陸製「エセ広東語」歌謡に学ぶ正しい「カントポップ」の作り方(3):押韻と文体

        中国大陸の非広東語話者によって作られ、歌われる「エセ広東語」歌謡。 それを「エセ」たらしめている要素を分析し、そこから反対に正しいとされる「カントポップ」の要件を考えようという企画の第三弾。 前回は〈不该用情〉という楽曲を取り上げたが、その時にこの楽曲のサビが「-ing」で韻を踏んでいるという話をした。 作詞技法としての押韻 押韻はカントポップの歌詞が持つもう一つの特徴である。どんな歌であれ、基本的には脚韻を踏むようにフレーズ末尾の音を揃えなくてはならない。 つまり、

        • 中国大陸製「エセ広東語」歌謡に学ぶ正しい「カントポップ」の作り方(2):短母音と入声と「咬字」

          中国大陸の非広東語話者によって作られ、歌われる「エセ広東語」歌謡。 それを「エセ」たらしめている要素を分析し、そこから反対に正しいとされる「カントポップ」の要件を考えようという企画の第二弾。 前回は〈笑纳〉というSNS上でのヒットソングを題材に、広東語歌謡における声調とメロディの一致(「協音」)を考察した。 今回は〈笑纳〉と同じくらい中国大陸のSNSで大きな話題を呼んだらしい「エセ広東語」ヒット歌謡〈不该用情〉を取り上げたい。 〈不该用情〉(2020) この曲は、20

        【新歌推介】 Novel Flash〈That's My City〉ft. PetPetShawn:国際都市の裏側を描くラップ 【香港音楽】

        • 中国大陸製「エセ広東語」歌謡に学ぶ正しい「カントポップ」の作り方(終):カントポップは誰のものか

        • 中国大陸製「エセ広東語」歌謡に学ぶ正しい「カントポップ」の作り方(3):押韻と文体

        • 中国大陸製「エセ広東語」歌謡に学ぶ正しい「カントポップ」の作り方(2):短母音と入声と「咬字」

        マガジン

        • 至少有歌:香港カントポップの現在
          22本
        • 書評
          15本
        • 時事
          9本
        • 未定義的衝撃:Mirror現象と国安法時代の香港カントポップ
          7本
        • カメラ/写真
          3本
        • 映画
          3本

        記事

          中国大陸製「エセ広東語」歌謡に学ぶ正しい「カントポップ」の作り方 : 旋律と声調を合わせよう(「協音」)

          わたしは香港の文化を研究している。中でも「カントポップ」と呼ばれる香港の広東語ポップスについても論文を書いたり、このnoteで解説をしたりしている。 専門はあくまで香港なので、「一国二制度」の壁で隔てられた向こう側、中国大陸のことはあまり知らない。けど最近、偶然中国大陸で作られた「カントポップ」っぽい広東語の歌を複数耳にした。 たとえばこんな感じの歌だ。歌い出しは普通話(標準中国語)だけど、サビは突然広東語になる。 吕口口〈你最近好吗?〉(2021) あるいは同じくサ

          中国大陸製「エセ広東語」歌謡に学ぶ正しい「カントポップ」の作り方 : 旋律と声調を合わせよう(「協音」)

          【新歌推介】 Lolly Talk 《六度相隔理論》:香港産J-POPの到達点 【香港音楽】

          もうそれほど新しい歌でもないのだけど、個人的に今のところ2024年の香港の歌の中で一番気にいっている曲なので紹介したい。 香港の8人組ガールグループLolly Talkの2024年最初の楽曲「六度相隔理論」(6次の隔たり理論)。 聴いてもらえればわかる通り、とてもJ-POP風味が強い楽曲になっている。 いきなり賑やかにはじまるイントロといい、途中で三拍子風になったりサビで転調したりする慌ただしい展開といい、ちょっと懐かしいJ-POPというかアニソンっぽいノリを感じる気がす

          【新歌推介】 Lolly Talk 《六度相隔理論》:香港産J-POPの到達点 【香港音楽】

          【新歌推介】 戴祖儀 Joey Thye 《女子本色》:日本語と広東語で交互に歌われる香港産J-POP 【香港音楽】

          8月リリースの曲だけど、今更発見したので紹介する。 戴祖儀(ジョーイ・タイ)という歌手の『女子本色』という曲。YouTubeでサムネを見て「ああ、また日本でMV撮影した系のカントポップね」と思って再生したら、ちょっとびっくりした。冒頭の歌詞がいきなり日本語だったからだ。 そこからはいったん広東語の歌詞に戻る。 そのあとはまた、一回日本語に戻って、最後はまた広東語に戻る。 日本語と広東語と交互に歌われる様子が新鮮で楽しい。 MVの説明欄によれば、この歌は、東京で撮影され

          【新歌推介】 戴祖儀 Joey Thye 《女子本色》:日本語と広東語で交互に歌われる香港産J-POP 【香港音楽】

          【新歌推介】 moon tang 《房屋供應問題》:手狭になる部屋、窮屈になる関係 【香港音楽】

          香港の女性シンガーソングライター、moon tangの最新シングル『房屋供應問題』(住宅供給問題)。 moon tangは、英語の自作曲を歌うインディーズ歌手として活動をはじめ、とりわけ当時のボーイフレンドだった人気若手R&BシンガーのGareth T.と共演した2021年6月の『honest』などで注目を集めた。 2022年にはGarethの所属レーベルでもある香港ワーナーと契約し、英語曲『Lately』でメジャーデビュー。 広東語の楽曲は、今年5月発表の『戀人絮語』

          【新歌推介】 moon tang 《房屋供應問題》:手狭になる部屋、窮屈になる関係 【香港音楽】

          消せない街の記憶:書評 Louisa Lim 『Indelible City: Dispossession and Defiance in Hong Kong』

          いい本に出会えた気がするので、まだ精読の途中だけれども、紹介したい。 2022年に出版されたルイーザ・リムの『Indelible City: Dispossession and Defiance in Hong Kong』(消えない街:香港における奪取と反抗)という本だ。 タイトルや表紙を見て「なるほど香港デモの本がまた出たのね」と思ったあなた、ちょっと待ってほしい。私自身、本屋で見かけたときの第一印象はそうだった。 でも、この本は、単に2019年の逃亡犯条例改正反対運

          消せない街の記憶:書評 Louisa Lim 『Indelible City: Dispossession and Defiance in Hong Kong』

          【新歌推介】 CHOR 《人之初》:カントポップ業界を裏方として支える実力者がアビー・ロードに集結して録音したサイケデリック・ロック 【香港音楽】

          作曲家、編曲家、演奏家などとして香港音楽シーンを裏で支えるかたわら、浮遊感溢れるハイセンスなソロ曲を発表しているCHOR(鍾楚翹)の新曲。 CHORは今年3月に人気歌手の張敬軒(ヒンス・チョン)と周國賢(エンディ・チョウ)のイギリス公演にもサポート・メンバーとして参加している。この新曲『人之初』は、その2つのライブの合間にあった1週間ほどの期間に、ロンドンのアビー・ロード・スタジオで録音されたものだという。 そのため、この曲の演奏には同じく周國賢のサポート・メンバーとして

          【新歌推介】 CHOR 《人之初》:カントポップ業界を裏方として支える実力者がアビー・ロードに集結して録音したサイケデリック・ロック 【香港音楽】

          【新歌推介】 Billy Choi 《Sorry呢度係香港》:「悪いな、ここは香港だ」 ラップで紡ぐこの街の絶望と希望 【香港音楽】

          香港のラッパーBilly Choiによる最新のラップ。 Billyは香港の中でも都心からはかなり離れ、中国大陸側の深圳にほど近い位置にある新興住宅地「天水圍」の出身。「天水圍」には貧困や非行など色々な社会問題を抱えたコミュニティというイメージもあり、香港映画の題材にもなっている。 2020年1月、彼は同郷のヒップホップグループ「光頭幫」(TomFatKi)と共に、この街を題材にした『天水圍Gang Gang』をリリースし、Youtubeの公式動画が数百万再生を記録するなど

          【新歌推介】 Billy Choi 《Sorry呢度係香港》:「悪いな、ここは香港だ」 ラップで紡ぐこの街の絶望と希望 【香港音楽】

          【新歌推介】 Nancy Kwai 《You took my breath away》:香港ワーナーがプッシュする新人のメロウで切ないバラード 【香港音楽】

          1ヶ月前の歌なので新曲というほどでもないのだけど、偶然YouTubeのおすすめで聴いてどハマりしてしまったので。 Nancy Kwaiという香港の歌手のバラード『You took my breath away』。 情感を誘う切ないメロディラインがとてもいい。アレンジもおしゃれ。 曲調からも容易に推測できそうな気がするけど、歌詞は別れを歌っている。 MVの撮影地は沖縄だろうか。ひとり旅の切ない雰囲気が歌詞を引き立てている。 フィルム調のノイジーな映像も曲調にあっていてとて

          【新歌推介】 Nancy Kwai 《You took my breath away》:香港ワーナーがプッシュする新人のメロウで切ないバラード 【香港音楽】

          【新歌推介】 sica《天氣之女》:「ヂ、気のザ、。」謎日本語風タイトルの爽やかなJ系アイドルポップ 【香港音楽】

          (2023/08/05追記:MVがリリースされたので追加) いつものように香港カントポップの新曲をあさっていたら、読めそうで読めない、日本語っぽいけどそうではない、不思議なタイトルのジャケットに目が止まった。 「ヂ、気のザ、。」 濁点の使い方が日本語っぽいが、意味がわからない。 曲情報を見ると、正式なタイトルは「天氣之女」らしい。 なんちゃって日本語風にするために意味のない濁点をつけたり、ちょっとカタカナっぽいフォントにしたりしてるんだろう(ちなみに「の」は香港や他

          【新歌推介】 sica《天氣之女》:「ヂ、気のザ、。」謎日本語風タイトルの爽やかなJ系アイドルポップ 【香港音楽】

          【新歌推介】 鍾柔美《y2k還襯我麼?》:2006年生まれの歌手による00年代文化へのトリビュート 【香港音楽】

          「Y2K」つまり「Year 2000」と言って、2000年代初頭のファッションがZ世代の若者の間で流行っている、なんて話はあちこちで目にするわけだけれど、これは日本だけでなく世界的な流行で、香港も例外ではないらしい。 香港の歌手、鍾柔美(Yumi Chung)がリリースした新曲『y2k還襯我麼?』(Got Y2k?)は、タイトル自体にY2Kという言葉が含まれている。MVでも色々なY2K的ファッションが披露されているようだ。 2000年代初頭のファッションってこんなだったっ

          【新歌推介】 鍾柔美《y2k還襯我麼?》:2006年生まれの歌手による00年代文化へのトリビュート 【香港音楽】

          【新歌推介】 COLLAR 《idc》:香港発ガールズグループの成熟を感じる新曲 【香港音楽】

          2022年1月にデビューした香港の新人ガールズグループCOLLARの7枚目のシングル(広東語曲としては6枚目)。メンバーのSo Chingの脱退により7人体制となってからは、初めてのシングルとなる。 4th『OFF/ON』で切り開いた直球なガールクラッシュ路線をさらに進展させたような印象だが、2nd『Never-never Land』と同じ作詞家が起用されていたり、何かと”日本風”で話題になった3rd『Gotta Go!』と同様に、K-POP色のみならず、とりわけビジュアル

          【新歌推介】 COLLAR 《idc》:香港発ガールズグループの成熟を感じる新曲 【香港音楽】

          パロディソングで振り返る香港の2022年(前編) 【晴天林 SunnyLamまとめ】

          あっという間に2022年が終わった。なんて記事を書こうと思っていたら、むしろ2023年も12分の1が終わってしまった。 去年の年末から、なんとか2022年の香港を振り返る記事が書けないだろうかと思っていたが、香港にいたわけでもない(2019年を最後に行けていない)、最新のニュースを常に追いかけていたわけでもない(特にこの半年間は博論執筆と映画上映イベントの準備に追われていた)私にかけることが思いつかなかった。 でもなんとか1年を振り返らないとどうもピリッとしないし、放って

          パロディソングで振り返る香港の2022年(前編) 【晴天林 SunnyLamまとめ】