【新歌推介】 Novel Flash〈That's My City〉ft. PetPetShawn：国際都市の裏側を描くラップ 【香港音楽】
曲名：That's My City
歌手：Novel Flash (ft. PetPetShawn)
リリース日：2024/6/18
作曲：Novel Flash, PetPetShawn
作詞：Novel Flash, PetPetShawn
編曲：⚡️DEMON✨$layer🔪🧟
香港の新興ヒップホップレーベルYack Studio所属のラッパー、Novel Flashの新曲。彼の新作EP《A.I.O.N》の収録曲。別のヒップホップレーベル「摩四青年」所属のラッパーPetPetShawnが客演で参加している。
「それが俺の街だ」というタイトルの通り、香港の実情、特に経済格差の問題が時にユーモアも交えながら歌われる。
幸せになる方法を考えてる人がいる
食べていく方法を考えてる人がいる
1000平米プール付きに住む人がいる
一家全員大人も子供もダブルベッド
足も伸ばせない状態で寝る人がいる
あるひとは最低賃金より低い労賃
それでもそばにたくさんの「兄弟」（ションディー*）
声だけはデカい 俺は何をしてもLow key
お前は待つ昇進 俺は待ってるShow fee
序盤のアドバンテージ 結局家庭環境が肝心
まるで裸足の山登り それに重りがたっぷり背中に
インスピーレーションが富なら 俺は李嘉誠（リカーシン）**
心も広い ふところのデカさは まるで嘉盈（カーイン）***
**：香港一有名な億万長者 ***：巨乳キャラで知られる香港の女性YouTuber
ミュージックビデオの冒頭にサンプリングされているのは、香港の経済状態の不公平さを訴える1999年のテレビドラマ『創世記』の名ゼリフだ。
聞いてみればいい。その辺の誰でもいい。彼らが何を欲してるのか聞いてみろ。彼らの答えはシンプルだ。ただ平々凡々な家が欲しいだけだ。たった一部屋のローンの返済に、なぜ彼らは一生を費やさなければならない？金持ちどものふざけたゲームのせいだ！金がある奴だけが参加できるゲームだ。こんな世界が公平か？こんな世界が公平か！？
街全体がどれほど豊かであっても、市民の大多数はそれを享受できない。
客演のPetPetShawnの担当するパートではそんな憤りも表現される。
大部分の市民は 社会の豊かさと無関係
揺るがぬ貧富の格差 固さはまるで鋼板性
フックでは経済の問題に加えて、治安など別の問題も言及されている。
紅灯緑酒 紙酔金迷 ネオンが煌めく
That’s My City
飯を買う金があっても食う時間がない
毎秒数百万が上下する
That’s My City
どうにか職を見つけて勤労 That’s My City
なんとか足りて払える賃料 That’s My City
ニュースを見れば あちこちで刺した刺された
国際大都市 That’s My City
支出が収入を上回る That’s My City
他人の不幸が大好物 That’s My City
言論を罪に問い投獄 電話詐欺に強盗
風向が凌駕する道徳 That’s My…
昨年6月に発生し、2人が亡くなったショッピング・モールPlaza Hollywoodでの刺殺事件を始め、昨今の香港では刃物による通り魔事件が複数発生し、住民の注目を集めている。
「ニュースを見れば あちこちで刺した刺された」（望住啲新聞劈來劈往）というラインは、それに関するものだろう。
広東語では「都」が「刀」が同音なので、ネット上では刃物関連事件の増加する現状を「国際大都会」ならぬ「国際大刀会」だと揶揄する声もある。「刺した刺された」の後に続く「国際大都市」という言葉は、おそらくこうした言葉遊びを踏まえたものだと思う。
香港の現状に対する不満を表現するラップとしては、以前Billy Choiというラッパーによる「悪いな、ここは香港だ」という曲を取り上げたことがある。
全体的なモチーフは、Billyの曲もこの曲も変わらない。どちらも香港の現状に対する不満を言葉にしている。
ただ一つ違いがあるとすれば、Novel Flashのラップには、ほんの少しだけ、前向きな希望のようなものが見出せることかもしれない。
「まだ希望があると思うか？悪いなここは香港だ」とBillyは吐き捨てた。
一方のNovel Flashは、音楽を通じて成り上がることへの希望も口にする。
眉を揚げ気を吐く会社 頭文字はY 後ろはStudio
That’s Why 俺がたくさん歌を書くワケ
ここは土地は狭いのに 文句を吐くビッチだらけ
異なる緯度 まるで楚河*で隔てられ
俺が駆けずり回る間 あんたは足踏みしてるだけ
考えたこともないな 何を推進するだとか
でもすっかり俺の中毒だ ヘロ中が「龍を追う」**ようなもんさ
いつか俺の子供たちは クソほど誇りに思うだろうさ
オヤジにはあったんだ 香港という地で夢を追う度胸が
**：ヘロインを吸うことを意味する広東語の隠語「追龍」
絶望的な街の現状に不満を抱きつつ、ヒップホップという夢を追いながら、彼らはこれからも「自分の街」香港で生きていくのだ。
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