見出し画像

花の値段のはなし

花屋に勤めていた頃、お客さまから「先週はもっと安かったのに」というような質問をよく受けた。花は生ものだし旬もあるので、野菜と同じように日々値段が上下するのは当たり前なのだけれど、それが頭の中でうまく結びつかないひともいる。

花は嗜好品。生活費が厳しければまずカットされるのは「お腹が膨れないもの」で、花はその筆頭なのだと常に感じていた。今はどの町にも1つは花屋さんがあるけれど、自分のために花を買う人はきっとまだ少ないだろう。

それでも、普段花とは無縁の人が花屋に集まる時期がある。母の日やクリスマスもだけれど、別格はお彼岸とお盆だ。花屋の売上はほぼ仏花で成り立っていると言っていい(たぶん)。自分のためには買わないけれど、亡くなった方のためになら…なんて、とても素敵なことだなぁと思いながらも、客数と共にどんどん上がっていく仕入値に売り手は胃が痛む。

仏花のメインになる菊は本来は秋の花だけれど、電照菊といってハウスで夜間に光を当てることで開花調整が出来る。とは言え繁忙期は需要が10倍以上になるので限界はあるし、気象が絡んで希望日に出荷出来ないこともある。日頃は市場で1本80円ほどのものが、彼岸前に500円位まで高騰することも。花屋はそこに約3~5倍のマージンを付けて販売する。1本1500円の菊なんて誰が買うんだろうと思うし、私の店では諦めて扱わなかったけれど、都内などではやむを得ず仕入れる店もあるのだろう。

逆に時期をわずかに過ぎれば市場価格は急落する。値段が付かず、大型の冷蔵設備を持つ花屋や仲卸業者がタダ同然で引き取ることもある。店頭ではそれを、何か買ってくれた人にサービスしたりしてとにかく「配らないといけない」のだけど、繁忙期直後でそもそもお客さまが少ないから、いずれは枯れるか腐るかで廃棄するしかない。


私が数年勤務する中で、一度だけ例外的な「急落」があった。東日本大震災の時のこと。東北方面への道路が断たれて、全国の生産品が関東で足止めされたため、市場がパンクしたのが原因だった。(私の店がお世話になっていたのは大田市場なのだけれど、同じケースは他所でもあっただろうし、今思えば花だけに収まる話ではない)あの時痛手を負ったのは東北の農家だけではなかった。今回の熊本地震でも、大なり小なり全国的に被害があっただろうなと思うと心が痛む。

それでも東北震災の後、嗜好品である花を敢えて買いに来てくださった方がいて、今でも印象に残っている。「悲しい出来事があった時こそ、せめてお花くらい飾りたいわよね」と。

余談だけれど、熊本花市場では毎月7・8日を「くまもと花の日」とし、県産の花をアピールしている(熊本県内のみ。いずれ全国的に広まってほしい)。震災直後の「花の日」が「母の日」と重なり、心身にも花の値段的にもスタッフの方々は大変だったと思うけれど、せめて、人と花の距離がまた少し近づく機会になればと願っている。

---

…noteに花屋コラムがあまり無かったので、月一回くらい書いてみようと思ったのですが、なんだか硬い仕上がりに(汗)。でも少しでも、花のことを知ってもらえたら幸いです。

20160601

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?