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神戸映画資料館と小池照男さんの記憶──『映画愛の現在』関西初上映

明日12月15日(金)から19日(火)まで、鳥取の自主上映活動を追ったドキュメンタリー『映画愛の現在』の第Ⅰ部と第Ⅱ部(2020)が神戸映画資料館で上映されます。「映画とは何か」ではなく「映画はどこにあるのか」を探し求める旅の映画。鳥取に縁のある人に限らず、映画が好きな人・好きだった人、映画館が身近だった人・遠かった人、幸福な映画体験の記憶がある人・辛い映画体験の記憶がある人、その他、何かしらの思い入れがある人なら誰でも、どこかしらに自分自身と接続できる要素があるのではないかと思います。関西圏での初上映、ぜひご覧ください。

映画愛の現在第Ⅲ部(2024年2月に神戸映画資料館で上映予定)には、冒頭と中盤に神戸のエピソードが出てきます。実は私は神戸出身で、高校時代に映像作家の小池照男さんが主催するKAVC映像ワークショップ(於 神戸アートビレッジセンター)に参加したことが、個人映画・実験映画の世界に足を踏み入れたきっかけなのでした。ワークショップの参加者は社会人や大学生がほとんどで、高校生の参加者は私一人。大人たちに混じって映画について議論したり、上映会を開いたり、8ミリフィルムに触れたりした経験が大きな刺激となり、現在まで続く映画制作の土台になっています。私にとっての「映画愛」の原点がこの映像ワークショップにあると言っても過言ではありません。

神戸アートビレッジセンターで2002年に行った「個人映像集団 化粧」上映会の準備中の様子
『映画愛の現在 第Ⅲ部/星を蒐める』(2020)より

映画作中のナレーションでも触れていますが、鳥取に来てから数年後、水野耕一さんが主催する「よなご映像フェスティバル」の出品作品を鑑賞したとき、故郷に帰ったような、懐かしい気分になりました。そこには小池照男さんのKAVC映像ワークショップと同じ空気が流れていたからです。「売れること」や「よく見られること」に固執しない、まさに自己表現の世界。私は小池さんが企画した様々な上映の場で、全国公開される映画以外にも様々な映像表現のかたちがあることを知りました。正直なところ、わけのわからない作品や退屈な作品も少なくありませんでしたが、だからと言って、通うのをやめようとは思わなかった。その不思議な魅力に引き込まれ、いつしか自分自身も「個人映画」の作家であることに誇りを持って活動するようになりました。

小池照男さんは2022年3月に逝去されました。その2年前、神戸映画資料館で行われた特集上映「小池照男 映像作品全仕事」(2020年11月13日〜14日)と「小池照男 映像個展」(11月8日~11月23日、於 city gallery 2320)を拝見した際、ご挨拶もできないまま鳥取に戻らざるを得なかったのが悔やまれます。その後、Facebookでメッセージをいただき、芸術教育も「両方とも全うしてください」と応援してもらえたのが嬉しかった。小池さんをはじめとして、これまでお世話になった恩師・先人たちから受け取ったバトンを次の世代に引き継ぐことが、『映画愛の現在』(特に第Ⅱ部)のテーマでした。この映画を見てもらうことができないままお別れになってしまったのは本当に残念ですが、最後のメッセージでは、小池さんから、今度は「映画とは何か」を君たちがしっかり追究していく番だよ、応援してるからねと声をかけていただきました。期待に応えねばと、強く思います。

2023年になって、鳥取大学の学生がフィルムの映写に興味を持ち、8ミリフィルムの上映イベントや、ダイレクトアニメーションの制作WSを行うようになったのは、とても感慨深い出来事でした(杵島和泉8mm Film Project──映画詩を読む」)。私が高校時代にKAVCの映像ワークショップで学んだことを、今度は自分のゼミに所属する学生が学び、さらにはそれを広める活動を始めている。たとえ直接の交流はなくても、確かに小池さんの映画への情熱が次の世代に継承されているのだと、そう感じることができました。「かつて人から預かったものを手放して、別の誰かに預ける時が来たのだ。映画から遠く離れていくような感触と、もっと近くに来ているような感触を確かめながら、わたしはいまの仲間たちと過ごす、最後の旅へと出かける」(『映画愛の現在 第Ⅱ部/旅の道づれ』より)。私の故郷である神戸で、恩師の特集上映が行われた場所である神戸映画資料館で、『映画愛の現在』という作品を上映できることを、とても嬉しく、また光栄に思います。


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