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聞く人を見よ――にんげん研究会「ゲストリポーター」について

 私が鳥取大学の合同ゼミ「にんげん研究会」(通称・にんけん)に参加してからもう四年が経つ。会の不思議な名称を体現するように活動内容も多岐に渡り、毎月「たみ」でおこなわれる定例ゼミではゲストを招いての講座を開いたり、輪読会を行ったり、卒論・修論の中間報告会をしたりと、様々な試行を重ねてきた。中でも、ここ数年でもっとも力をいれて取り組んできたのは「地域の記憶を記録するメディアプロジェクト」だろう。趣旨を簡潔にまとめるなら、

① 地域の身近な人の話を聞きに行く
② それを何らかのメディアに記録する
③ 第三者に伝達・共有する

 というプロセスを、「何を聞くのか」「そもそもなぜ聞くのか」「どのメディアを用いるのか」「そもそもメディアとは何か」「どこで発表するのか」「そもそもなぜ発表するのか」……といった根本的な問いに繰り返し立ち戻りながら進めていくプロジェクトである。

にんけん図01

図の作成:白方欣江

 わかりやすい指針がなく、ともすれば空中分解しかねない危うさを抱えながらも、これまで研究会が成立してきたのは、コーディネーターをつとめる蛇谷りえさんの力量に依るところが大きい。にんけんに出席するたび、私は蛇谷さんの「聞く」技術に感嘆してきた。タイトな時間制限の中で、会の迅速な進行と、個々人の話を粘り強く聞く姿勢を両立させている。常に全体に気を配り、活発な発言を促しつつも、何も言わずただそこに居ることも許容する空気を作っている。なぜそんな離れ業ができるのだろう? 私にとってにんけんとは、蛇谷さんが人の話を聞く姿を観察して、その技術を教わる場でもあった。

 そのような背景があったので、五島朋子先生から「今年のにんけんで何か新しい試みを始めてみませんか」とお話をいただいたとき、人の「聞く」姿を見て学ぶこと自体をプロジェクト化するアイデアが自然と浮かんできた。すなわち、「作る」だけでなく「見る」「聞く」専門家でもあるアーティストを「ゲストリポーター」として招き、一人の聞き手として研究会メンバーの発表を見守り、当日の記録を「ゲストリポート」としてまとめてもらう。研究会メンバーは、講師が壇上から語りかける一般的な講演を聞くのではなく、アーティストが実際に「見る」「聞く」を実践している姿(=作品制作のプロセス)を見ることを通じて、その技術を学ぶ(盗む)。身近な人物から聞いた話を語る発表者の話を聞くゲストリポーターの姿勢を観察するという入れ子構造。これこそまさに「にんげん」研究ではないだろうか……?

にんけん図02

図の作成:白方欣江

 こうして、写真家の金川晋吾さんとアニメーション作家の今林由佳さんを、ゲストリポーターとして鳥取にお招きすることになった。研究会メンバーと蛇谷さん、教員、そして二名のアーティストがそれぞれの思惑で立ち回り、にんけんはますます不思議な空間になった。

 金川晋吾さんは写真集『father』(青幻舎、二〇一六年)で注目を集めた。失踪癖のある父親というシリアスな題材を扱いながら、記録された人物の表情や佇まいにはどこかとぼけた味わいがある。人間はどれだけ深刻な状況に置かれても、間の抜けた表情を浮かべたり、場違いな言葉を吐いたりしてしまうことがある。それを隠すことも強調することもせず、端的な事実として見つめる眼差しを金川さんは持っている。

 今林由佳さんはアニメーション作家・絵本作家として活動し、福祉関連のテレビ番組や企業広告のアニメーションも手がけてきた。今林さんのイラストには、誇張化されたキャラクター表現の一歩手前で立ち止まり、実在のモデルをありありと想像させるような生々しさがある。老人一般ではなく、固有名を感じさせるお爺ちゃん・お婆ちゃんを描き、幼児向けの絵本でも、可愛らしさと野生の気配を同居させてみせる。

 そんな二人が今回、それぞれ三本のリポートを制作してくださった。紙媒体の記録集を発行・配布している他、鳥取大学・アートマネジメント講座のウェブサイトでも読むことができるので、ご興味のある方はぜひご覧いただきたい。

 金川さんと今林さん、両者の「聞く」姿勢は優しくて厳しい。たとえ学生が相手でも、学生扱いせず、一人の人間として向き合う。相手を過小評価しないからこそ、当たり障りのない言葉でお茶を濁したり、安易に結論を出すこともしない。疑問や違和感があれば、それを率直に表明する。実際にリポートを読んでもらえれば、両者の妥協のなさが伝わるだろう。ここには、迷いに満ちた、だがとてつもなく贅沢で幸福だった時間が記録されている。




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映像作家、企画者。取手→赤羽→鳥取。