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#84 「ありのまま」 の意味が、分かりかけた今日

「ありのまま」はとても難しい概念だ。ビートルズは “Let it be” 、ビリー・ジョエルは “Just the way you are” 、ディズニーはアナ雪で “Let it go” と表現してきたが、これらの歌詞だけからでは「ありのまま」の本質は読み解けない。
 フォローし合っている noter さんたちの記事を見ても、「ありのままの自分」は人気トピックだ。今回は少しシリアスなトピックなので、改めて Let it be を聴きながらお読みいただきたい(ヘッダ写真は鳥羽湾)。



忘れない日

タイトルで、「分かりかけた今日」と書いたが、実は今日、11月11日というのは、僕にとってちょっと特別な日だ。とても仲良くなりながら、付き合うことはなかった女友達二人の共通の誕生日だ。あまりに覚えやすい日なので、おそらく一生忘れないだろう。先に、遠い国からお祝いの気持ちを届けたい。ちなみに11月11日は、午前11時に第一次世界大戦が終わった日(1918年)でもある。

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畑でレストラン

一人目は、高校時代の一年上の先輩。太陽のような人で、仲間内での人気者だった。大学では社会学を学んで、将来はジャーナリズムやメディアの世界に進むのではと周囲は思っていた。しかし彼女は東京を離れ、現在は生協が主催する「畑でレストラン」というプロジェクトを率いている。
 畑の中に仮設テントでレストランを仕立て、有名シェフに地産食材を使ったメニューを食べてもらおうという、素敵なムーブメントだ。当時の仲間がどう思っているかは知らないが、とても彼女らしく、素敵だと思う。

英語ディベート日本一

二人目は、大学時代の四年下の後輩。こちらは一転、月のような人で、その陰影豊かなところに惹かれたのか、やはり仲間内での人気者だった。あまりの人気に、ある年の誕生日パーティーはハシゴしていたのを知っている。
 彼女は英語ディベートの名手だった。車の中で話していて、「今度の大会、日本一取りたいんですよ。取れたら、お祝いしてくれますか?」と聞かれて、「もちろん」と答えた。そして彼女は数週間後、本当に日本一を取った。花束をプレゼントした。村上春樹の小説みたいな展開だ、と思う。やれやれ。


「ありのまま」ではないもの

最近、擬似「ありのまま」が世の中に氾濫しているように思う。例えば次のようなフレーズだ。

・あなたは今のままで十分美しい
・何者かになろうとすることはない、あなたのままでいい
・「がんばる」ことをやめたら、本当の自分になれる

これらは間違いではないが、「ありのまま」の真の姿を表すには、とても多くの前提が必要になるように思う。つい最近、30年来の友人の高校生のお嬢さんが「もともとはそれほど得意ではなかった」内容の部活動で大変素晴らしい成果を収め、本人もやりがいを感じるようになった、という話を聞いた。
 もし、上の3つを最初に当てはめていたら、彼女がその素晴らしい経験をすることはなかった。無条件に「今のままでいい」というのを「ありのまま」と考えるのは、やはりもったいないことだと思う。

「あの選択をしたから」

3日前、上掲タイトルのコンテストに入賞した。他の入賞者の作品も読み、それらの優れた作品と上の11月11日生まれの二人の友人の記憶が、「ありのまま」の謎を少し解いてくれた。それは、「これは自分が自分の人生で為すこと」と「これは自分の人生の外にあること」の「境界線」をきちんと理解することだ。
 病気のガンのように周囲の細胞との境目が分からなくなった状態(浸潤性)は「ありのまま」とは言えず、「周囲とは異なる自分」を境界線とともに自覚した状態が、「ありのまま」だろう。英語で言うなら、フレーズなら “just as it is”、一語で言うなら、integrity だ。

尊敬するジャズ・フュージョンサックス奏者の本多俊之さんが以前、親交のあるクラシック・サックスの須川展也さんとの対談でこんなことを言っていた。

僕はジャズもクラシックも演奏するけど、ジャンルの境目は大切だ

これは本多さんの「ありのまま」の理解の表出だったのだと思う。

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11月11日の二人に戻って

「畑でレストラン」と「英語ディベート日本一」の二人は、「自分はこの円の範囲内で生き、これより外は守備範囲外」という区別がきちんとできている人だった。自分の守備範囲外のことには惑わされず、持てる能力を範囲内にちゃんと集中させられるので自分の「ありのまま」の中で成果を出せ、なんというか、「無理のないしあわせ」を手に入れていたように思う。
 無理に「何者かになろうとして疲れてしまう」ことや、「がんばり過ぎて疲れてしまう」こととは、二人は無縁だった。「境界線を分かっている」ことが、決定的に大切なのだと思う。


Take it easy

今回の気づきは、今日生まれの二人と尊敬するサックス奏者二人、そして「あの選択をしたから」の共受賞者のみなさんの生き様から頂いた。受賞作品を代表して、高埜志保(たかのしほ)さんの作品を引用させていただく。

同時に、この気づきの長年の伏線は本多俊之さんの上の言葉だった。氏のこの姿勢を体現した曲を最後に紹介したい。タイトルは TAKE IT EASY、「ありのまま」の意味に悩んでいた友人もこの言葉を note のタイトルにしている。

ソプラニーノからバリトンまでサックス13人+ピアノという大編成の曲で、ジャズとクラシックの奏者が混ざって、「ありのまま」の個性を保ちつつ演奏する「クラシック作品」だ。途中、全員2小節ずつのソロもある。この曲、一度生で聞いたのだが、「鳥肌が立つ」という言葉を体感した時間だった。
 僕の知る限り、「ありのまま」という言葉が一番似合うのは、この曲の作曲者・演奏者の本多俊之さん、13人の中央で白黒の花柄シャツを着ている人だ。僕も還暦を迎える頃には、こんな人になっていたい。

今日もお読みくださって、ありがとうございました🎷
(2023年11月11日)

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