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居酒屋 どりーむ

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居酒屋 どりーむ⑦

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 俺が一番避けようとしていた事態が目の前で起きた。現在、山下は俺の目の前で、ひたすら泣きじゃくっている。

 だから必死に止めたんだ。

 駅での修羅場の次の日、俺は黒子さんから教えられた、林のアパートの前で張り込んでいた。一度林の部屋をピンポンダッシュして、在宅していることを確認した。林のプライベートの邪魔を少しだけできて、それだけでも若干の達成感があった。

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居酒屋 どりーむ⑥

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 8月になって、大学の前期の授業が終わり、無事にテストも終わった。多分、俺の成績も終わった。それもこれも、俺に張り込みをさせた林が原因と言っても過言ではない。

 部活漬けの夏休みの俺は、肌の黒さに限界が来て、山下に、「竹内の腕、ミルフィーユみたい」と引かれたくらいだ。

 埼玉が暑さに本気を出して、1ヶ月経とうが、埼玉生活6年目だろうが、この暑さには慣れず

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居酒屋 どりーむ⑤

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 私の21歳は、どりーむで迎えた。まさかプレゼントを貰えるなんて思ってもいなかった。
 後日、竹内からじゃがりこを貰う予定ではいたが、予想外の坂本さんからのプレゼント、まさかのシャンパンには驚いた。私が酒を飲めることを知られていたかは知らないが、すごい嬉しい。人生でこんなにも早くシャンパンを口にできるとは思わなかった。ワインですら、スーパーの安物しか飲んだこ

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居酒屋 どりーむ④

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 暑い。
 夏になるたびに俺は毎回思う。なんで埼玉にいるんだと。千葉も暑いのだろうけど、埼玉は暑いと言われる限りは、埼玉の方が暑く思える。それこそ千葉よりも、山下の実家の新潟なんかの方がよほど涼しいんじゃないかと羨ましくなる。冬は豪雪と極寒の地でも、夏は軽井沢のような避暑地になりえるんじゃないかと、想像が膨らむ。

 今日も家からバイト先までの短い距離でも俺はT

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居酒屋 どりーむ③

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 6月も中盤になり、埼玉では早くも日差しが強まり、私は嫌でも本格的な夏の到来を認めざるをえなかった。

 大学に入学するまでの18年間、新潟に住んでいた私からしたら、6月で、うわー夏だなー、なんて思うことは快晴になったときくらい。もはや新潟では快晴が少ないので、6月で埼玉同様の夏を感じることはほぼなかったと言える。新潟での夏と埼玉での夏を一緒の「夏」という字でまとめて

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居酒屋 どりーむ②

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 4月が過ぎるのはあっという間だった。
 どりーむでの初バイトを終えて、着替えている時に、山下に更衣室のドアを開けられたのが、つい最近のように思える。

 いつもサッカー部の部室で、女子マネージャーに全裸を見られるのは全く気にしない俺だが、バイトが終わり、気を緩めて着替えてる時に山下に見られたのは、パンイチとは言え、不意打ちで恥ずかしかった。
 あっちが開けて

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居酒屋 どりーむ①


「面接に来ました、竹内(たけうち)です!」
 店に入るやいなや、俺は喉に染み付いたでかい声を店内に響かした。しかし、店員は1人も見当たらず、返答もない。
 まさか、店を間違えたか? と思い、店の外に出て、店頭の看板を見る。看板には、「どりーむ」と書かれている。間違いない。

 埼玉のJRの駅から徒歩3分、3車線の幹線道路沿いにある個人経営の居酒屋「どりーむ」に俺は面接を受けにきた。この店で間違

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