掌編小説302(お題:君に贈る火星の)#ショートショートnote杯応募作品
ごはんだよ。きみが呼ぶので、仕事の手をとめてダイニングにむかう。ボウルに山盛りのポテトサラダ。おいしそうだねとぼくは言った。
「今日はなにをつくってくれたの?」
「生姜焼き」
と、きみは言う。
「生姜は、わたし漬けないで冷蔵庫でリンしちゃうんだ。時短になるから」
へぇ、と感心しながらぼくは食器の用意をする。
はじめまして、火星人です。事故から奇跡的に生還したきみが言ったとき、ぼくはきみの命の代償としてその真実を受けいれると決めた。地球と火星、言葉や意思が嚙みあわないことはもちろんある。けれどきみがそこにいて、火星の料理をふるまってくれる光景は毎日ぼくを不思議な気持ちにしてくれた。悲しくて、なのに、とってもあたたかくて幸せな気持ち。
「おいしい」
生姜焼きを口に運んで思わず顔が綻ぶ。
安心したような、泣きそうな顔で笑うきみ。
ぼくはポケットに隠していた指輪を、とうとう、きみに贈る決心をする。
(390文字)
※ショートショートnote杯への応募作品です。
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