見出し画像

アスリートの食物アレルギー検査に思うこと

公認スポーツ栄養士の佐々木です

現在大学教員をしていますが,冬季スポーツのオリンピアン (メダリスト),高校野球選手,陸上競技選手へのサポートや小さい栄養講座の実施,執筆活動を細々としております

さて,最近,以下のようなアスリートの食物アレルギー (検査) についての記事が出ていました

簡単に書くと,

パフォーマンス向上を目的として,公認スポーツ栄養士をつけて食事の改善を行なった
その際,公認スポーツ栄養士のアドバイスにより,食物アレルギーの検査を行った
その結果,卵と牛乳で異常値となった
卵や牛乳を控える食生活にしたところ,体調の改善傾向が見られた
パフォーマンスが改善し,メジャー移籍に繋がった

と言う感じ

日本人の食物アレルギーを持つ人は増えていると言われたりしていますが,食環境の変化や検査制度,食物アレルギーの認知などが変化していると思うので,変化があることは,まぁ当然であるかなと思います

この記事に対して,

というツイートが付きました

食物アレルギーが周知され,メディア,SNS で取り上げられることが増えたからか,食物アレルギーの検査を受けている人も増えているような感覚があります (あくまでも私が調べている感覚です)

アレルギー症状がなくても,血液検査である程度のリスクがわかるので,「手軽さ」があるのかもしれません

検査は,血中のIgE抗体を検査します

IgE抗体
IgE抗体は,即時型アレルギー反応をおこす大切な役者です。アレルゲンによる感作がおこると,そのアレルゲンにだけ結合することができる特異IgE抗体が形質細胞で産生されます。アレルゲンが卵白であれば卵白特異IgE抗体,ダニであればダニ特異IgE抗体が産生されます。産生されたIgE抗体は,血液中を流れて,私たちの皮膚や粘膜のすぐ下にいるマスト細胞や,血液中を流れる白血球の一種である好塩基球の表面にくっつき,アレルゲンと出会うのを待っています。

日本アレルギー学会

どうやら,200種類以上のアレルゲンに対する特異IgE抗体を測定することができるそうで,検査をするときには,いくつか種類を選んで行います
息子が生まれた時に食物アレルギーを発症してしまい,何度か検査をしているので意外と身近なことだったりします

特異的IgE抗体を測定する血液検査で気をつけなければならないのが,食物アレルゲン (アレルゲン=アレルギーのもと) では,値が高いからと言って,必ずしも症状がでない場合があるということです

あくまでも,「抗体の値が高いから,アレルギーになる可能性が高いかもね」という感じでしかないのです

もし,何かしらの食物で症状が出れば,食物負荷試験などを行って,確定診断をしていく形になります

さて,上記記事で野球選手が行なっていた「遅延型」の検査ですが,それほど推奨されている検査ではありません

日本アレルギー学会から声明が発表されています

即時型食物アレルギーに関しては,こちらを参考に

もう一つの免疫学的機序は即時型に対してlgE抗体に依存しない非即時型(あるいは遅発型,遅延 型)と呼ばれる反応です。この場合の詳細なメカニズムはまだ解明されておらず議論の多いところで すが,T細胞というリンパ球による反応ではないかと考えられています。即時型と異なり食物を摂取してから数時間後に湿疹・掻痒などの皮膚症状が主に認められます。

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-08.pdf

遅延型が関わる抗体がIgGと言うところがみそです

IgEが関わるアレルギーと異なり,遅延型食物アレルギーは,腸管の粘膜の損傷に起因していて,その粘膜にできたすきまから血中に食材が漏れ出てしまうことというのが症状発生までの流れになります
[リーキーガット症候群という]

つまり,遅延型食物アレルギーの症状を出さないためには,すきまを塞ぐと言うことが大切になり,「食べない」と言う選択は,食べられる食品を狭めることにも繋がります

さて,話をスポーツ選手の検査の話に戻してみます

実は,私が以前サポートしたトップアスリートも食物アレルギーの検査をしていました

これは,私が強く勧めたわけではなく,「受けたほうがいいですかね」と言う相談に対し「別に受けなくても良いですが,気になるならデータだけでも持っておいていいかもしれませんね」というやりとりから,選手本人が判断して受けたものでした

検査結果を見て,上記選手は,「これは食べないほうがいいですか?」「これ食べた後,お腹が痛くなりますかね」みたいな感じで,食に対して不安になる面がありました

このようになることは予想されていましたし,数年間の付き合いで,何かしら食べた後に不調になるようなものはありませんでしたので,そういった不安に対して丁寧に回答をして,理解を深めてもらうサポートを行いました

検査後,特段食品を制限することなく,引退まで元気に競技を続けてくれました

このような経験等を含めて,スポーツ選手の食物アレルギー検査に関する私見は以下の2つになります

  1. 何かしらの食品を食べて明らかな食物アレルギー症状が出た場合には,IgE抗体の血液検査は一考の余地があると思う

  2. 遅延型食物アレルギー検査は,声明が出ているように積極的に受ける必要はないと思う

これら2つには,食物アレルギー専門の医師または管理栄養士への相談は必ずする,という条件が付きます

正直に行って,アスリートが食物アレルギーの症状がないのに,積極的に検査を受ける必要はないのかなと思います

検査を受けることによるデメリット (不安や無意味な食物制限など) もありますので,デメリットを考えると受ける必要はないかと

また,遅延型については,本当に原因不明な不調に襲われていて,「ある特定の食品を食べた時に症状が出るかも」と気づいた時に実施すればいいくらいで,IgE抗体の血液検査と同様に,症状がないのであれば受ける必要はないと思います

あくまでも私がジュニア選手に関わっている感じだと,食物アレルギーっぽい症状の選手が存在することは否定しません
ですが,だからといって,検査を勧めるようなことにはつながらないと思いますし,つなげません

選手が気にしていないのに,不安を作ってしまうことのほうが問題だと思います

今回の記事は,遅延型アレルギー検査を勧めるような内容になってしまっていたことが問題だろうと思います

「検査したらこうだったので,こういう対応をしました.検査は専門医に相談しましょう」くらいであればまぁ,許容される感じだったかなと...

メディアがこの手の記事を出すときには往々にしてあることだと思うので,スポーツに関わる栄養士はこういったことを聞かれても良いように,情報収集はすべきだと思います

さて,ここからは,少しぶっちゃけ話

ここから先は

375字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?