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時間とは?本当の豊さとは? 『モモ』 ミヒャエルエンデ

時間とは?本当の豊さとは?

普段から読書が好きですが、このような有名な児童文学書を読んだことがなかったのでたまたま読んでみましたがとても面白かったです。

『モモ』はミヒャエル・エンデというドイツの児童文学者によって著されました。この本は町外れの円形劇場に迷い込んだ不思議な浮浪少女の「モモ」と「灰色の男たち」との戦いが描かれたファンタジーです。

児童向け文学と言えど、大人だからこそ楽しめる、理解できる現代社会への警鐘、学びがいくつもありました。

この物語りのあらすじを蕩々と書くことはしませんが、いくつかの要素は書かなければ説明が難しいので書きます。まずこの「モモ」という少女は特に優れた「聞く力」を持っていました。

これは超能力的なことではなくただ時間を使って否定せず目を見てゆっくり相手の話に耳を傾けます。こうすることで相手に考える時間・空間を与えます。こうすることで聴いてもらっているうちに、悩みや問題を抱えている人は、希望が湧いてきたりします。喧嘩をした者同士は、小さな誤解が原因だったことを知ることになります。人々はモモにゆっくりと話を聞いてもらうために集まったり遊んだりして、それぞれが裕福ではないものの、想像力を使って遊び、のんびりとした日常を過ごしていました。

そして「灰色の男たち」とは「時間泥棒」です。頭の先から爪先まで灰色で灰色の服に灰色のカバン、灰色の葉巻を吸っています。この得体のしれないMen in Grey: MIG( 勝手に名付けました)たちは、人間から時間を盗んでしまいます。

と言っても人間たちは時間を節約するように唆され、それが正しいと思って生活しているだけです。「時間を節約しろ!」「無駄を省け!」「時は金なり!」このような価値が広がっていきます。人間は次第に忙殺され、人と話す時間は減りました。親が子供たちと遊ぶ時間も減り、その代わりに遊びかたの限られた高価なおもちゃを与えられます。古臭い馴染み客が居座るようなバーも利益率が悪いからと馴染みを追い出しました。その結果人はどうなったでしょうか。時間は節約しているはずなのに前よりもずっとせかせかしています。焦ったりイライラすることが多くなります。想像力も生まれない、子供は小さい頃から勉強や職業訓練に勤しみます。そのほうが「無駄がない」ですから。人とゆっくり話す時間がなく他人への理解も興味も薄れていきます。馴染みを追い出し利益は増えて忙しくなったけど、何だか自分の店が自分の店じゃないみたい。。

この本の恐ろしいところ?面白いところはファンタジーのはずなのにガッツリ現代社会の私たちと重なり突き刺さってくる点です。資本主義へのアンチテーゼともとれます。物質的な豊かさと精神的な豊かさが比例関係にあるのかと考えされられます。さらに怖いのは灰色の男たちによる時間泥棒と言っても、例えば時間を引き剥がしているような描写はなく、人間の現実的な生活の中で知らず知らずのうちに時間を失っているように感じられる点です。人間は矯正されたのではなく、自ら選択して時間を失っているように感じられるのです。得体のしれない「灰色の男たち」は、「資本社会」のような目に見えない圧力のような概念をファンタジーチックに表した物で、人間はそのような見えない何かの力に左右されつつ、自ら選択して恐ろしい世界を形成している。

そして後半では物語が進むにつれて「時間」とはそもそも何なのか、について迫っていきます。これはとても曖昧な表現で描写されているので具体的なことは正直よくわかりません。しかし、幻想的で哲学的な表現、宗教的な雰囲気など非常に物語りの世界に引き込まれました。作中に出てくる描写の意味合いを自分なりに解釈することで様々な考えが浮かんできて楽しかったです。時間の尊さ、各人にとっての時間の価値、時間という概念の捉え方。これは読んだ人が十人十色それぞれいろんなことを感じると思うのでぜひ読んでみてください。

このような本当の豊かさとは何なのか。そして盗まれてしまうこの「時間」とはそもそも何なのか。いろんなことを考えさせられる一冊でした。実は私たちもいつの間にか「灰色の男たち」に時間を盗まれていないでしょうか。時間がない、暇がない、とはいうけどそれは人間が人間らしく生きる時間の問題であり、それは私たちの心の問題なのかもしれません。

これは余談ですが、私は小学校の時に学級文庫で『果てしない物語』という本を読んだことがあり、とても厚い本だったのと(小学生の私には文字通り果てしない物語でした、、)表紙が布張りの特殊な本だったので印象に残っていました。高校生の時に買いなおしたくらいです。この本もミヒャエルエンデ作だったのを知って何だか感動しました。この本は物語りの構造が斬新で面白いのでおすすめです。

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