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最近の記事

映画「空白」 感想

登場人物がもれなく不幸になる新年にふさわしい陰鬱な映画だった。 ■感想主人公の「みんなどうやって折り合いつけてんのかな」の嘆きにすべてが詰まっている作品。 大きな悲しみの前に被害者と加害者は強く拗れて結ばれる。離れるわけにも、忘れるわけにもいかない歪さの中に人間が良く表現される。 主人公の古田新太さんが、ケレン味のある演技を抑えてリアルな演技をしてるところに好感触。こういう嫌なおっさんいるよなって感じ。 娘が死んだ後に親父が他人に投げかけている言葉。俺が被害者なんだと

    • 兄の第二ボタン【習作百物語#013】

      「あなたのお兄さんの第二ボタンを欲しいの」 中学1年の僕が、気になっていた女の子に言われた言葉だ。 私には2つ上の兄がいて、丁度その年に卒業する予定でだった。 別段かっこいいわけではないが、穏やかで気づかいのできる兄だった。 依頼してきた彼女は、クラスの中でも3番目ぐらいに可愛くて あまり喋るのが得意ではない僕にも優しく話しかけてくれていた。 まだ、人を好きになる、といったことがよくわかっていなかった。 ただ、小学校の頃に無邪気に遊んだ女の子とは違う感情を彼女に持って

      • デジタル化【習作百物語#012】

        私の住む地域では、田舎特有の近所付き合いがいまだに健在だ。 高校生は、私ぐらいしかいない。中途半端にデジタルに強いので、ちょっとした仕事の依頼が近所からくる。 大体は、両親が勝手に話を受けてくるので断るに断れない。 例えば、パソコンのが動かなくなったとか、スマホのメールの打ち方がわらからないとか、そういった依頼だ。 皆とても喜んでくれるし、気持ちと言いつつ結構いい小遣いをくれるので私も時間がある時は対応している。 その中で特に時間のかかる依頼がある。それは、古いビデオの

        • 292日すべての時間を分析する。

          前回の記事でここ最近自分の人生の時間をすべて記録している、 とまとめした。 最近読んだツイッターの文章で時間を”人生の時間”基準で変換している記事を読んで面白かったので、自分も上記の記事の内容を改めて分析しました。 ◆分析前提 繰り返しになりますが分析前提データは下記の通り。  サンプル情報 : 30代男性/既婚/地方住 サラリーマン  期間     : 2021年2月9日 ~ 11月27日  記録日数   : 292日  記録方法   : スプレットシートへの打ち込み

        映画「空白」 感想

          間違いメール【習作百物語#011】

          珍しい名字の友人の話 彼は比較的大きな会社に勤めているが、同じ苗字の人間は社内に2人だけだ。相手とは面識はない。どうやら同じ30代の男性で、全く別の部署で働いているのことだけは分かっている。 珍しい名字だから名前まで確認しないのか、結構な頻度で間違いメールが友人に届く。 友人の会社のメールアドレスは、苗字+名前の頭文字で、後半のドメインは共通である。結局アドレスは、一文字しか違わないのでよく間違えられる。 間違いメールが来るたび、友人は同じ苗字の男にメールを転送している

          間違いメール【習作百物語#011】

          父と自転車【習作百物語#010】

          父と私の話。 父は典型的な仕事人間で、朝早く家を出て帰りは深夜遅い。 土日はゴルフかパチンコを嗜みほとんど家にはいない。 育児は母が一人で行っていて、小さなころ父と遊んだ記憶は数えるほどしかなかった。 思春期を迎える中学の頃には、あまりにも家にいない父に対して 「たまに来る親戚のおじさんだ」と友人に漏らしていた記憶がある。 決して中が悪かったわけではなかった。 むしろ、仲が悪くなるほどには近くにはいなかった。 そんな私も、今年で30歳。 社会に出て働く中で、父の気持ち

          父と自転車【習作百物語#010】

          深夜のビデオテープ【習作百物語#009】

          実家を出てもう10年は経つ。 定年した父が、私の部屋を趣味の釣り関係の部屋として使いたいとのことで片付けることになった。実家を出る際に必要なものは持ち出しているので、残っているのは不要品ばかりだろうと思っていた。 実際でできたのは学生時代の教科書や、昔流行った漫画やCD、元カノからもらった謎のオブジェ、友人から借りっぱなしの小説など、懐かしく、思い出深い品が多く、意外と片付けに時間がかかった。 そんな中、ブラウン管テレビの下の棚。 奥の方にタイトルシールが破れているビデ

          深夜のビデオテープ【習作百物語#009】

          祖母と思い出【習作百物語#008】

          祖母の話。 私の実家は、母方の祖母と祖父、両親と兄2人の7人家族だった。 祖父は私が高校生の時に他界し、兄弟3人はそれぞれ実家を出て別々に暮らしている。 結婚した私が嫁と共に実家に帰るたび、母と祖母が迎えてくれご飯を作ってくれる。 祖母「よく来たね。そっかそっか、もう結婚もして就職もしてたんだね。    本当に立派だね。おじいちゃんが生きていたら、さぞ喜んだだろ    うに、本当によかったね。」 祖母は僕の顔を見て嬉しそうに言ってくれる。 私は、祖母に「ありがとう」と

          祖母と思い出【習作百物語#008】

          彼のハムスター【習作百物語#007】

          高校時代の友人の話。 元々は同じクラスで席が隣になったことがきっかけで仲良くなった友人。 私は運動部、彼は文化部で友好関係も重なる部分が少なく、教室以外で話すことはほぼなかったと思う。 お互い別の大学に進み、社会人になった後、同窓会で久々に再開した彼は 某家電量販店に就職したという。 丁度その頃、私は彼女と二人で暮らすため、実家を出てようかと計画していた。私は新居に必要な家電の買いそろえについて彼に相談をした。 彼「とにかく、掃除機は吸引力が強いやつがいいよ!それに、洗

          彼のハムスター【習作百物語#007】

          ハレの日の個室【習作百物語#006】

          私は今、結婚式場の新郎控室で一人座っている。 4畳半ほどのとても狭い部屋には、椅子と鏡台だけだった。 机の上にはメモ帳と、洒落た羽のついたペン、造花が飾られており、 壁の上のほうに小さな窓があるだけの質素な部屋である。 「まるで明るい監獄みたいだ。」と場違いにそう思った。 “私たちの関係の意味を、そろそろ決めてほしい。” 大学時代から付き合っていた彼女にせっつかれ、私の結婚というイベントは流れ出した。ぼくの曖昧で八方美人な返答は、彼女にとってスタートのピストル音。 彼

          ハレの日の個室【習作百物語#006】

          292日すべての時間を記録する。

          こんばんは。笹子の民と申します。 地方でサラリーマンをやっております。 近年、様々な影響でサラリーマンの働き方も大きく変わってきていますね。私自身も残業が少なくなり自分の時間が増えました。 そうはいっても家に帰ってやることといえば、yotubeをだらだら見たり、目的のないネットサーフィンを行ったり・・・これはもしかしてもったない時間の使い方をしているのでは?と自分の時間を24hすべて記録をするようになりました。 ※上記は記録したある日のデータ よく自己啓発本でやったらい

          292日すべての時間を記録する。

          君のマフラー【習作百物語#005】

          彼女が出て行ったのは、その年の初雪の日だった。 なし崩し的に始まった同棲は3年目を迎えていて、 お互いに新鮮さがなくなってしまっていく関係に気づかないふりをしていた。 奇麗に彼女のものがなくなった部屋 すぐにかけた電話から聞こえた着信拒否の音声でやっと ”あぁ、そういうことなんだな”と実感した 数日たって、寒さが一段と強くなった日。 押し入れから、冬物の上着を出そうとした時に 彼女の赤いマフラーが残っていることに気が付いた。 顔をうずめて深呼吸をする。 マフラーには、

          君のマフラー【習作百物語#005】

          冬の風鈴【習作百物語#004】

          去年の冬のこと。 私は、数年ぶりに実家に帰省をした。到着した当日はやれご飯だ、やれお菓子だ、近所のあの子は結婚しただの、野菜を持って帰りなさいだの、区長の何某さんの親戚が亡くなっただの、マシンガントークで熱烈にもてなされた。 ただ、3日も家にいれば”いつ帰るの?”なんて聞かれるほど邪魔者扱いされ始めた私は、近所を散歩することにした。 目的地は、歩いて30分ほどの場所にある小学校。母の話によれば、3年ほど前に廃校になってしまったそうだ。私がいたころでも全校生徒100人満た

          冬の風鈴【習作百物語#004】

          喫煙所【習作百物語#003】

          会社の喫煙所には様々な部署の人間が集まる。 禁煙ブームのあおりを受けて、喫煙所の数は減り、さらにはスペースは縮小された。今ではウサギ小屋のように狭い部屋に、タバコの火がくっつきそうなほど人間が詰め込まれている。 そうはいっても、そこに集うは度重なる増税を超えてきた猛者たちである。こんなことではへこたれない。 多くの人は”自分は人より多く税金を抑えてやっている”といった間違った優越感を持ちながら今日もタバコをふかしている。 私の部署では喫煙者は自分だけだ。 話す相手もいな

          喫煙所【習作百物語#003】

          山ノ目 【習作百物語 #002】

          「角が生え 一つ目光る 夏の山」 小学校の頃に夏休みの宿題で短歌を作る課題があった。 上の句はその時に私が作ったものだ。 「山の角ってなんだよ!それに山に目があるわけないじゃないか!!」 提出するときに覗き見られて、クラスの人気者Y君にひどく笑われた。 言い返すこともできなくて、わざわざ短冊に書いたその句を隠すようにランドセルの奥に押し込んだ。結局、課題は出さずに、先生にひどく怒られたことを今でも覚えている。 家に帰った後、落ち込んでいる私とくしゃくしゃになった短冊を

          山ノ目 【習作百物語 #002】

          向かいのベランダ 【習作百物語 #001】

          高校時代の先輩の話。 彼女は、母と父の3人家族。小高い丘の上にある団地に住んでいた。 団地はそれぞれ5階建てで、3棟の建物がちょうど川の字に並んでいた。 4階に住んでいる彼女の一家は、日当たりが良いベランダにいつも洗濯物を干していたそうだ。 ある日曜日、買い物から帰ってきた母から洗濯物を干すように言われ、ベランダに出た。その時、彼女は不思議なものを見た。 物干し台からは向かいの棟のきれいに整列したベランダが見える。 その中の、ちょうど正面。 一人の中年の女が微笑みなが

          向かいのベランダ 【習作百物語 #001】