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君のマフラー【習作百物語#005】

彼女が出て行ったのは、その年の初雪の日だった。
なし崩し的に始まった同棲は3年目を迎えていて、
お互いに新鮮さがなくなってしまっていく関係に気づかないふりをしていた。

奇麗に彼女のものがなくなった部屋
すぐにかけた電話から聞こえた着信拒否の音声でやっと
”あぁ、そういうことなんだな”と実感した

数日たって、寒さが一段と強くなった日。
押し入れから、冬物の上着を出そうとした時に
彼女の赤いマフラーが残っていることに気が付いた。

顔をうずめて深呼吸をする。

マフラーには、彼女との思い出が詰まっていて
僕は寒い一人きりの夜になると、たまらず押し入れを開けては
彼女の香りを求めた。

我ながら、哀れだなと思いながらも、その癖は治らず
いつしかマフラーを抱きしめて眠る日が増えた。

自分がこんなにも女々しいのがなんだかとても可笑しくなって
別にそれでもいいじゃないかって、開き直ったように
彼女の香りに包まれて寝る毎日が、日常となった。

長い長い冬が終わり、春になった頃、僕を心配した友人の紹介で
新しく”いい人”ができた。
彼女とは正反対の可愛らしく小さな女の子
二人で飲みに行ったある日、初めてその子を僕の部屋に招いた。

水を汲んで部屋に戻ると、その子は赤いマフラーに顔を埋めていた

「あ、ごめんなさい。」見つかってバツが悪そうにはにかむその子

僕が何か言い訳をしようと思案しているとその子は
「これ、あなたの匂いがする」と気恥ずかしそうに言う。

いつの間にか僕の愛した香りは僕自身の香りになってしまっていた。

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