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山ノ目 【習作百物語 #002】

「角が生え 一つ目光る 夏の山」

小学校の頃に夏休みの宿題で短歌を作る課題があった。
上の句はその時に私が作ったものだ。

「山の角ってなんだよ!それに山に目があるわけないじゃないか!!」
提出するときに覗き見られて、クラスの人気者Y君にひどく笑われた。

言い返すこともできなくて、わざわざ短冊に書いたその句を隠すようにランドセルの奥に押し込んだ。結局、課題は出さずに、先生にひどく怒られたことを今でも覚えている。

家に帰った後、落ち込んでいる私とくしゃくしゃになった短冊を見て母は何かに気づいたのかもしれない。
私は前日に誇らしげに母に読んで聞かせていたし、そもそも短冊を準備してくれたのは母だった。

母は、落ち込んでいる理由を問うことはなかった。ただ、そばで「いい句だね、なんでこれを思いついたの?」と優しく聞いてくれた。


夏休みのとても暑い日のこと。家族はみんな留守にしていた。私は一人、2階にある子供部屋でゲームをしていた。

私の家は田舎にあり、窓の向こうに大きな山がある。
きれいな楕円を描いた1つ山で左側と右側に鉄塔が立っていた。
私にはそれがまるで角のように見えた。

ある時、ちょうど山の中腹当たりに、角と角のちょうど真ん中からちらちらときらめく光が見えた。その光の周りは木が少なく、白目の真ん中に輝く瞳ようだった。

”角が生えた一つ目の緑の鬼がこちらを見つめている!”

私には確かにそんな風に感じられたのだ。
その光は、数時間ほど続いた後ぱたりと止んでしまった。

母は、話を聞き終えると優しく頭をなでてくれた。


その後、母は少し硬い笑顔で立ち上がると、小走りに電話に向かい林業を営んでいる祖父に電話をかけていた。

山で遭難したときに鏡で太陽光を反射して助けを求める方法があることを知ったのは、それから十数年後のことである。

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