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落ちていく休日

急な休みが出来た。
オーディションへ行く予定があり空けていた日だ。結局は書類の時点で落ちていたのだが、その連絡が前日の夜に来たので、他の予定を入れる暇もなく休みになったという訳。

日雇いのバイトでも入れようか、それとも映画館へ行こうか。朝の時点ではそう思っていたけれど、雨と低気圧のせいで外へ出る気が失せてしまった。

私はいわゆる気象病というやつで、気圧が下がると頭が締め付けられたような感覚になる。西遊記の孫悟空が頭に付けている輪っか(緊箍児というらしい)を嵌められたみたいな感じ。もしくは、首から上が水族館のお土産屋さんで見かけるような指で押すと目玉が飛び出るマスコットになったみたいな感じ。いずれにせよ、気分は良くない。

少しのあいだ起き上がって、軽い食事を摂った後、のそのそとベッドへ戻る。少しだるい。横たわって雨音を聞いていると、自分と布地との境界が曖昧になる。自分が薄まって、広がっていくような。

次第に、私の身体はじわじわ溶け出して枕からシーツから零れ落ち、床へ流れていく。フローリングの木目を染み出して、階下の天井からでろでろと顔を出す。下の部屋に住んでいる人と目が合ってしまった。とりあえず会釈する。そういえば、このマンションに住み始めてからしばらく経つが誰にも引っ越しの挨拶をしていなかった。
「あの、半年ほど前に上の階へ引っ」
挨拶を終える間もなくべちょりと床へ滴り落ちる。液状になった身体が、今度は地中へと染みていく。ひんやりとして気持ちが良い。やっぱり夏は地底がいちばんだね、なんて思ったけれど、私の住んでいる場所って昔は海だったのを埋め立てた土地ではなかったか。そして、埋め立て地って土砂とゴミとを重ねて作るのではなかったか。

なんだか衛生面が心配になってきたので、身体を固体に戻してベッドから起き上がる。濃いめのコーヒーを飲む。遅めの昼食でも作ろうかなと思う。

低気圧がしんどくて、とても暇だという日記。

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