アーサナの先に見えるもの
静かなスタジオに響くカウント。
「 サマスティティヒ、エーカム、インヘル、ドヴェ、エクスヘイル、トリニ、インヘル、チャトヴァリ、ジャンプバック、パンチャ、インヘル、シャット、エクスヘイル… 」
時に、古希を超えた先生と還暦を超えた私だけの練習日がある。それは嵐の日や雪の日であり、互いに「シルバーヨガ」と笑い合っている。
ときおり、先生がzoomの向こう側に話しかける。額から流れる汗が目に入る。そんな瞬間が案外幸せだったりする。
ジャンプバックで音を立てると、穏やかに指導が飛ぶ。呼吸が止まっていることに気づくこともある。アジャストの手に身体は素直に従う。
最後のアーサナを終え、サマスティティヒに戻る。「ローカー・サマスター・スキノー・バヴァントゥ」をチャンティングし、屍の姿勢で終わるのが本来だが、このクラスには「平和のマントラ」がない。
ある日、ふと気づく。「世界の平和や幸福を祈るには、まだおまえは早い」と言われている気がした。外側へ向かって何か良いことをしようと願う前に、自分のことをちゃんとしろと。
そう、このクラスには、ブジャ・ピーダからクールマ、さらにスプタ・クールマへ移行する柔軟性と強靭さを試す動きや、ウバヤ・パダーングシュタからウールドヴァ・ムカ・パスチモッタナへ続く強力な腹筋を確かめる流れはない。
体力も気力も少しずつ終わりに向かっている。ひとつずつアーサナを手放していく寂しさと、自我とのバランスにもがいている。
それでもやっぱり、すべての生きとし生けるものの平和や幸福を願いたいんだけどね。
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