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ジムの価格は130円

学校から帰宅した高校二年生の長男が言った。
「お母さん、俺、ジムに行ってくる」

「ジ、ジム?」
私は思わず聞き返した。

私にとってジムとはひと月単位で契約するようなものであり、「公園に行ってくる」みたいな感覚で行くものではない。
友達に誘われて彼はジムに行くと言うが、変な勧誘をされないだろうか、と私の心にモヤモヤとした心配が込み上げてきた。

家に引きこもり、永遠にスマートフォンで荒野行動をし続けるより、ジムに行く方が断然、健全ではあるものの、「ジムに行ってくる」の一言だけでは私の心の安寧は確保されない。

過保護すぎると思われるかもしれないが、私は彼に根掘り葉掘り状況を確認してみることにした。
誰と行くのか、どこに行くのか、どういう誘い方をされたのか。怪しくないのか、所要時間は? 価格は?

彼は待ち合わせ場所を教えてはくれたものの、彼自身、どこにいくのかもよくわかっていない様子。この息子、大丈夫か? と思わなくもないが、誰と行くのかも教えてくれないし、安全な場所に行くのかどうかもこちらとしては判断がつかない。

「あ、でも130円だって」と息子。

130円?!

ジムにしては安すぎない?
どゆことそれ?

「あ、もしかしたら体育館かも」

息子のわずかな情報である「130円」と「体育館」という単語を足がかりに、私は早速、福岡市立の体育館の利用料を確認した。
するとトレーニング室の利用料金が高校生の場合2時間で130円とのこと。

なるほど。わかった。ハハ、理解した。

「よし。行ってこい。しっかり鍛えてこい」
と私は息子を気持ちよく送り出すことができた。

ジムという名の体育館から帰ってきた息子は、ウエイトマシンがどうだっただの、何キロ持ち上げられただの、腕がヤバいだの、とにかく楽しそうに体育館の様子を教えてくれた。

まだまだ、お子ちゃまでよかった。
かわいいなぁ、我が息子。

ほっこりした瞬間だった。





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