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吾輩はグルメである。

吾輩は犬である。名前はポッキー。

猿荻家のアイドルであり、もうすぐ一歳になるマルチーズとトイプードルの遺伝子を持つものである。
吾輩はかなりのグルメである。味のわかる男であり、この家の母親のように口に入ればなんでもいい、腹に溜まれば何でも良いと言うような適当さや雑さはない。

吾輩はグルメなので、朝晩に定期的に出される謎の茶色いカリカリとした食べ物はあまり好きではない。エイヨーがあるからと、おかんが食べなさいと言ってくるが、正直うまくはない。最近は、たっぷりの野菜を一緒に混ぜてくれるようになったので、食べれなくもない。しかし、もっとうまいもんよこせ。人間たちがうまいものを食っているのを吾輩は知っておるぞ。

先日、じじばばのうちで行われたバーベキューの折りにいただいたかぼちゃは、非常においしかった。甘くてホクホクしていて美味であった。その際にいただいたいちごも非常に美味しかった。以前に盗み食いしたすき焼きのしめじも美味かったし、別日に盗み食いした数種類のレタスのサラダもうまかった。プチトマトもプチっと弾ける感じがドキドキするが、吾輩はそれも結構好きだ。

最近は、凍らせたゼリーというのもいただく。
暑い日はこれがうまい。冷たいものを舌で舐めると、体がヒヤリとする。吾輩は暑がりなので、心地よい。ゼリーでなくとも氷も好きである。

そんなグルメな吾輩にも、食べたことがないものがこの世にはまだまだたくさんある。

吾輩はたまに買い物をする場所にも連れて行ってもらうことはあるが、吾輩はお金を持たぬので、好きなものを買うことはできない。吾輩は基本的に家族から提供される食べ物を食べるしかない。けれど、ごく稀に外に出た時に、食べ物を見つけることがある。

ある雨上がりの日のことであった。

先日から、道路に何か獲物のようなものがあることには吾輩も気づいていた。
むわんとコンクリートからのぼってくる雨上がり独特の匂いが吾輩の鼻を突いた。その中に、少し血生臭いにおいがあるのを吾輩は嗅ぎ逃さなかった。

吾輩の狩猟犬としての血が沸々と湧いてくるのがわかった。あれを手に入れたい。手に入れるんだと、吾輩は狙いを定めた。

おかんが吾輩から目を離した隙に、吾輩はその獲物をとらえた。
ガブっと口にくわえ、おかんに見つからないように咀嚼した。

「あー!ポッキー!なん食べようと!拾い食いしたらいかんやろ!」
おかんの甲高い、そして煩わしい声が道路に響く。

ばれた。ばれた。やばい。ばれた。
吾輩は焦った。

おかんはリードを短く持ち、すばやく吾輩を捕え、口をこじ開ける。
吾輩の獲物におかんの手が一瞬触れて、たじろいだのがわかった。

吾輩はその隙を逃さない。その隙に獲物を舌の下に隠した。
その様子をみていた小さい方の兄が私を捕まえた。吾輩の口に手を突っ込む。

やべ。これはとられる。はよ食べんといかん。

吾輩は味わうことを諦め、一気にそれを飲み込んだ。
うはははは。吾輩の勝利である。


……しかし、その後の話は、あまりしたくない。

吾輩が食べたものをおかんはおとんに報告をした。おとんは激怒した。吾輩はすぐにケージに入れらた。おかんは食べさせてしまったことを反省しているのか、しょぼんとしている。これまでも拾い食いをしたことはあったが、吾輩はこれほどまでに怒られたことはない。

もう眠る時間になった頃、おかんは吾輩をお出かけ用のバックに押し込んだ。そして、おとんとともに吾輩を車に乗せた。どこに連れて行かれるのかもわからぬまま、吾輩はカバンの中で編み目の隙間から外を覗くことしかできない。ゆらゆらと揺れる車内は、夜の空気を纏い 、少しばかり吾輩の眠気を誘った。

どれほど時間が経った頃だろうか。
吾輩たちは車から降り、そしてよくわからぬ初めての場所についた。吾輩は白くて清潔な空間で、白い服を着た知らない人に引き渡された。背の高い机に乗せられて、何やらされるらしい。

吾輩はケツに注射を打たれた。

すると吾輩は吐き気をもよおした。せっかくがんばって食べたカリカリも、せっかく拾い食いした獲物も、全て胃の中からすっかり吐き出した。

白い服の男は、吾輩の吐いたものをおとんとおかんに見せた。
「まだ消化していなかったので、綺麗に吐いてますね。だいぶ腐敗が進んでいたので、吐かせてよかったと思います。このままだとお腹を壊してましたし、一週間くらい下痢が続いてたかもしれないですね。食べたものが雛だったようなので、骨も柔らかく、喉にも刺さっていないので、これでひとまず安心でしょう」

おとんもおかんも、白い服の男の話を聞いて安堵しているようだった。費用が高いとおかんが舌打ちをしていたが、吾輩には意味がよく分からない。

「吐き気止めの注射をしておきますね」
そう言うと、白い服の男は再び吾輩のケツに針を刺した。

おかんは再び車を呼び、吾輩はまたお出かけバックに押し込められ、再びゆらゆらと車に揺られて帰っていった。

車の中で少し眠ったので、吾輩は帰ってからとても元気になった。
対照的におとんとおかんの顔には疲弊が見えた。いつもより老けて見える。おじんとおばんだな、と吾輩は思った。

吾輩のグルメ遍歴に入れるはずであった、よくわからない鳥の雛の亡骸は、残念ながら吾輩のグルメの歴史に刻まれることはなかった。まあ、丸呑みしたので、正直なところ美味かったかどうかもよくわからないが。

次は何を食べようか。
吾輩は美味しいものを食べさせてもらえることを祈るばかりである。




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