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賑やかな食卓での会話_あれは、宇宙との交信だった。

夕刻。

平日の夜7時に、珍しく家族四人でダイニングテーブルを囲んだ。
いつもならば高校2年生の長男と小学5年生の次男は、呼べども呼べどもリビングに顔を出さない。なぜならば、ゲームを優先しているからだ。
夜7時半ごろになって、ゲームのキリのいいところで、やっと息子たちがリビングに顔を出すのが我が家の日常だ。

しかし、今日は違った。

メニューが鶏の唐揚げだったからだ。
我が家の平日メニューは曜日によってメイン食材が決まっている。
今日は火曜日。火曜日は魚の日だ。

ちなみに、月曜日が肉料理、火曜日が魚料理、水曜日が肉の揚げ物、木曜日が魚料理、金曜日がワンプレートご飯と決まっている。

今日は鱚の唐揚げがメイン料理なのだが、それだけでは食べ盛りの息子たちの腹が満たせそうにないと、私は鶏胸肉を削ぎ切りにして唐揚げも用意した。
揚げたての唐揚げを食べたい息子たちは、夕飯の準備ができるとすぐにリビングにやってきた。ダイニングテーブルにつくと、間髪入れず食事をとり始める。

今日は長男と次男が饒舌で、しかも、会話のキャッチボールがうまくいっているようだった。いつもなら、お互い半分喧嘩腰なのだが、どういうわけか今日は調子がいい。いいことだ、と私は唐揚げを口に放り込みながら、二人の様子を見つめた。

たまに会話のキャッチボールがこちらに飛んでくるので、いい感じに返事をして投げ返す。会話の内容は「みそきん」が美味しそうだの、「次の旅行はどこに行きたい」だの、たわいもない会話だ。

会話のキリのいいところで、長男が少しにやけた表情を浮かべる。

「そうそう。中学校の時、毎朝、宇宙と交信するおばさんが通学路におったんよね」
「宇宙と交信?」
私はぷっと笑う。

長男の目線は、黙々と食事をとっている夫にも向けられていて、笑いを取りたいというのが目線だけで伝わってくる。

「両手をあげて、ゆっくり歩きながら『あー』って声を出しとってさ、めちゃくちゃ怖いと。あれは絶対、宇宙と交信しとるけん!」
長男がドヤ顔で、家族の顔を交互に見た。

「そうかもね〜」
私が軽く笑う。

夫が真剣な顔をして、朗らかな空気を切り裂いた
「それはあれたい。宇宙との交信やない」

賑やかだった空気が、しんとなる。

「元気を集めとるっちゃろうもん」
夫がドヤ顔で言い放った。

「元気玉かいな」
私が思わず突っ込むと、食卓は再び賑やかな空気になった。
夫も心なしかニヤついていて満足そうに見えた。



その日の食卓は、非常に賑やかだった。
今、振り返ってみても、何が楽しかったのかは、よくわからない。はたから見たら取るに足らないようなくだらないことばかりだろう。
けれど、そういうくだらないことが、案外、大事なんじゃないかと思ったりもする。

そういえば、このくだらないの中に愛があるのだと、星野源が歌っていたし。






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