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geostationary orbit

 俺は何も出来なかった。母親が狂気に侵された時も、ロビンとカナリアが苦しんでいた時も、二人の小さな幸せが終わりを告げてしまった時も、あいつが全てを捨てて飛んでいってしまった時も、俺はただ側で見ていることしか出来なかった。誰のことも救えなかったし、支えになってやることも出来なかった。
 俺は無力だ。今までの生で、何度も何度もそれを思い知らされてきた。
 だが空を飛んでいる間は、自分が無力だということを忘れていられる。
 こんなにも大きな空の中で、人間一人が何の力も持っていないなんて、あまりにも当然のことだからだ。
 だから俺は飛ぶ。たった一人になったとしても、この空を飛び続ける。
 空の向こう、空の果て――
 そこに、何があろうとも。

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