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MARNIと自意識

ファッションは好きだけれど、いわゆるブランドものにはあまりこだわりがない。
古着も着るし、ギャル向けの服も着る。
可愛ければ、似合っていれば、名前にはこだわらない。
…実際は、そもそもブランドものを買う財力がない、というのも理由の一つだし、どこかで「ブランドものにこだわらない自分」というものにアイデンティティを見出しているところもあったと思う。

だから、アウトレットのMARNIで超お値打ち価格のアウターを見つけた時も、MARNIだからではなく、そのデザインに一目惚れをして購入を決めた。
ユニセックスのサイズ展開で、中でも1番大きい0サイズ。
鮮やかな水色と、スポーティーでありながら洗練された雰囲気のデザインがあまりにも可愛い。
そして、自分によく似合うと思った。

ある時、友人の佐藤と古着屋巡りに行くことになった。
佐藤は「モテたい!」が口癖で、元々ファッションにはあまり興味がなかったのだけれど、一緒に古着屋を巡るようになってから「似合う」を見つける喜び、そして「変わっていく」ワクワクに目覚めた男である。
その日の目的は、夏に向けてのTシャツ探し。
まだ寒かったので、お気に入りのMARNIのアウターを着ていくことにした。
Tシャツの品揃えが豊富な古着屋に連れていくと、佐藤が「うわ!!可愛い!」と、あるTシャツに一目惚れ。
勢いそのままにレジに持っていくと、「15000円です」と店員が言う。
佐藤は一瞬固まった後、意を決した顔で財布からお札を取り出した。
値段を見ていなかったのだ。

帰り道、「Tシャツがさ…15000円やで…白の…絶対カレー屋着て行かれへんで…」と項垂れる佐藤。
「ヴィンテージになると三桁の額がつくTシャツもあるし、ブランドものやとTシャツといえど15000円では買えんからなあ…」と言いながら、改めて自分にはブランドものはまだ早いなと思った。

そうこうしているうちに、私が帰る駅に着ついた。
佐藤が「一緒に心斎橋駅から帰ろうや」と言うが、私の家は反対方向なので断ると、「散歩がてら心斎橋駅から帰ろうや!!」と佐藤が粘る。
「ほんなら佐藤がこっちから帰ったらいいやんけ」と言うのだが、なぜだか心斎橋駅まで一緒に歩いて欲しいらしく、「な〜!!!」と大きな声を上げながら私の服を引っ張ってくる。

「ちょ引っ張らんといて」引っ張る手を振り払う私。

「心斎橋いこや!!!」引っ張る佐藤。

「おい!!!!!引っ張んな!!!!!」振り払う私。

「心斎橋から帰ろや!!」引っ張る佐藤。

「ちょ破れる!!!!!」佐藤の手を叩きまくる私。

「な〜!!」引っ張る佐藤。

「おい!!!やめろ!!!!」

「MARNI!!!!!破れる!!!!!」

「これMARNIやぞ!!!!!!!!!!!」

ブランド名を叫ぶ私。


「これお気に入りやぞ!!!!!」ではなく、ブランド名を叫んだ私。

自分の中にもしっかりとブランドものに対する高揚感と自意識があるにも関わらず、さもそんなもの取るに足らないことかのように振る舞っていた私。

己のダサさと対峙することはとても辛い。

それでも、全てを抱えて生きていくしかないのである。

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