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建築物を見て歩くⅫ東京タワー

世の中でいちばんかなしい景色は雨に濡れた東京タワーだ。

「東京タワー」江國香織

冒頭のセリフが印象的な江國香織の小説「東京タワー」を知ったのは2005年に公開された源孝志監督の映画「tokyo tower」でした。
東京タワーを彩る四季の風景を繊細な映像で切り取り、物語の背景に映りこむ東京タワーが、その存在感を静かに放つ映画です。
「きっと恋はするものじゃなくて落ちるものなんだ。」と
呟く主人公の視線の先には,常に東京タワーがあり、彼の心の在り方をうつしとり、表情を変える鏡のような存在だと感じました。
それが冒頭の言葉に表れています。

映画のように四季の移ろいを真似るのは難しいですが、東京タワーを10月の風景と一緒にカメラに収めてみました。

10月の空を背景に
東京タワー直下

東京タワーの正面入り口からタワーを見上げて撮影しました。青みが少なく、雲の多いグレーの空を背景に、鉄塔の朱赤がしっくりと馴染んでいます。

増上寺と並び立つタワー
増上寺三解脱門
ライトアップが始まる夕暮れ
10月からは冬バージョン
ライトアップされた増上寺

400年前に建立された建物と並んでも違和感を感じさせないのは、東京という街が持つ力と、ライトアップ効果があると思います。

10月からの冬バージョンカラーには、温かみを感じさせるイエローが加わりました。

1枚のフレームの中にシャンパンゴールドの屋根と鮮やかなイエローゴールドとオレンジ色を纏ったタワーを収めました。
墨色の夜空を背景に並んでいる姿が美しすぎたため、懸命に構図を考え、何枚も撮影を試みました。

建立400年の佇まいと共に

今回、10月12日から18日まで1週間限定の増上寺のライトアップに遭遇しました。
偶然のコラボレーションが導いてくれた1枚。
今回のベストショットです。

10月15日に放送されたTV番組「新美の巨人たち〜照明デザイナー石井幹子×羽田美智子」でも紹介されていた東京タワーのライトアップは、石井幹子さんの代表作の1つです。

「光は浴びるものです。」
石井幹子さんが、大切にしている恩師の言葉だそうです。
今回、その言葉を漠然とした理解のまま自分の中に取り込み、考え、咀嚼しながら撮影に臨みました。
光の質感やテクスチャーを見るだけでなく、感じる行為に気持ちを集中させると、言葉の意味が少し理解できたような気がします。

暗闇に光を灯して

車を運転しながら、東京タワーを目の端に捉えることは幾度となくありました。
ただ、東京タワーに出かけて
登ったことは2、3度ぐらいだったと思います。
遠くから眺める存在です。

また東京の街は、意外に暗闇が多いことも今回の撮影で気付きました。

ラフマニノフが似合う佇まい

ラフマニノフとマーラーの楽曲が映画「tokyo tower」の中で流れていました。
どちらの曲も東京タワーの放つ空気感に似合っていると感じます。
特にラフマニノフのピアノ協奏曲第2番ハ短調は、映像の持つ甘美な場面に合っていると思いました。

1958年(昭和33年)に完成した東京タワー。
64年の時を経て、ライトアップされた姿は、東京の夜に光を灯し、見る人の心にも光を届けてくれそうな気がします。

ご参考になればと思います。

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