見出し画像

エネルギー体

体は全部知っている。

中学一年の時に、部活内部のいざこざに巻き込まれた。
きっかけは、「先輩」「後輩」関係の拗れだった。誰が「生意気」だとか、誰は誰の「お気に入り」だからどうだとか。それら全てを「頭の悪そうな会話」としか思えなかった私は、当然先輩からあまり好かれなかった。段々と部活自体が面倒くさくなり、お腹が痛くなって休むことが増えた。典型的な過敏性腸症候群だった。

中学二年になる頃には転部した。

二年のクラスでは、いじめのターゲットになった。
きっかけがなんだったかももはや覚えていない。ある日突然無視されるようになり、授業中に発言すれば揶揄され、私は再び頻繁に腹痛を抱えるようになった。両親は何も言わずに必要なだけ休ませてくれた。そうこうしている内に他の友人ができ、そして驚くべきことに私をいじめていた首謀者が今度はいじめられる側になり、学校に来なくなった。

その後も、何度も腹痛はやってきた。

高校受験で、大学受験で。時には電車内で気絶しそうになりながら、それでも私はなんとかその痛みを飼い慣らすようになっていった。大学生になる頃には正露丸とストッパと痛みどめが必需品になり、いつどの薬が必要なのかもわかるようになっていた。そうやって段々と痛みをコントロールできるようになり、20代半ばには腹痛を経験することはほぼなくなっていた。

27歳のある日、突然強烈な頭痛に襲われた。

立っていられない。
強烈な痛みと吐き気に襲われ、吐いてしまう。
ただただ目を閉じて暗い部屋で寝る以外、何もできない。

そんなことが2回続き、流石に何かがおかしいと思った私はMRIを撮った。
脳神経外科医の先生は画像を見ながら、「綺麗な脳みそだね〜」と言った。意味するところは、映像に映る範囲では脳になんら異常はない、つまりは神経の問題だということだ。典型的な偏頭痛だった。

そこからは腹痛ではなく、頭痛との闘いに変わった。
頭痛は腹痛と違って、ストレスの「最中」よりも「直後」に来ることが多い。

論文を書き上げた時、大きなプロジェクトが終わった時、授業期間が終わった時。朝起きてしばらく生活をしていると、ある時突然視界が歪む。閃輝暗点というやつだ。文字が見えにくいな、と思ったらそれがサイン。目の前をキラキラしたジグザクの光が点滅する頃にはすでに痛みと吐き気に襲われている。そうなると、痛み止めを飲んで暗く静かな部屋でじっとするほかない。

時に授業を休講にしながらなんとかやり過ごし、自分に合う痛み止めを発見した。頭痛のくる「パターン」や「サイン」に気づくようになると、ずっと過ごしやすくなった。34歳で脳神経内科の先生に勧められた漢方薬を始めると、さらに状況は好転した。2年かけて少しずつ体調は変化し、今では頭痛を経験することはほぼなくなった。


春先に、Instagramを通じて知り合った方と初めてお会いした。
彼女と私はもう数年来相互フォローしていたけど、特に文字で絡むことはなかった。互いのインテリアやファッションセンスが近く、写真をいいねしあう程度の関係だったのだが、ある時ちょっとしたことをきっかけにテキストでやり取りするようになり、直接会いましょう、という話になった。

文章や写真、そしてインテリアのテイストから「こんな人かな」というイメージを互いに持っていた。そして初めてお会いした時、そのイメージはいい意味でバッサリと裏切られた。ハードロックを聞くボーイッシュなかっこいい女性をイメージしていたのだが、目の前に立っていたのは背の小さな、しっとりした色気を漂わせる美しい女性だった。

何より、彼女を初めて見た時に印象に残ったのはそのエネルギーの強さだった。ただそこにいるだけでわかるのだ、エネルギーが放出されているのが。発光しているというのに近いかもしれない。すっかり意気投合し、初対面にも関わらず5時間以上話し続けてしまった。話の途中で彼女はこういった。

「体は全部知ってるの。」
「だから、抗わなければ自然と恒常性は保たれるの。」

自分の気持ちに抗わないこと。自分自身の治癒力を阻害しないこと。だからこの人はとても美しく、パワーにあふれているのだなと思った。


また別の場で。久しぶりに会った犬友達が言った。
「『好きな場所で』『やりたいこと』ができてて、今が一番ストレスフリーです!」

彼女はこの春から北海道に引っ越し、新しいお仕事を始めた。

慣れない環境で、新しい職場で、さぞや大変でしょうね、と言ったら返ってきたのは上記のセリフ。なんてシンプルな、そして強烈なまでの真理だろう。彼女もまた、体中からエネルギーが放出されていた。

私は今あんなエネルギーを放出できているだろうか。
残念ながら、自信はない。私を阻害しているのもまた、私なのだろう。

そんなことを思いながら週末を学会仕事に費やしたら、顔中に発疹ができた。
やはり、体は全部知っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?