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【UWC体験記⑬】PeaCo Monologues (紛争体験共有イベント)ー「生」を考える

PeaCoはPeace Council(平和委員会)のことで、PeaCo Monologuesとは過去に紛争等の国際問題の影響を直接体験した生徒たちがその経験を他の生徒に共有するためのイベントです。

普段のPeaCoのセッションのように情報メインではなく、これは完全に自分の経験を主観で「パフォーマンス」としてステージ上で実施されます。形式は自由なのですが、多くのパフォーマーが1人で座って語る形式を取るため、Monologuesと呼ばれています。

事前公開のポスター

このイベントの大きな価値は、その生徒の母国で口にすると逮捕されたり、殺される可能性のある意見や言葉もAC(UWCイギリス校)という安全なコミュニティ限定という条件で口にすることができ、聞くことができるところ。

もちろん撮影や録音は禁止され、かなり生々しく過激な描写があると事前にPeaCoから警告があった上での参加となります。それでもTythe Barnで行われる数多くのイベントの中では観客数はかなり多い方になっています。

Tythe Barn

特に印象に残っているパフォーマンス、そして私の価値観への影響をお伝えしたいと思います。


1年目

パレスチナ

パレスチナからの難民の生徒1人がアメリカ大統領宛に向けたスピーチという形式で行ったパフォーマンス。「Mr President, …..」という呼びかけを何度もいれ、悲痛なパレスチナ難民の実態を訴えます。だんだんと話し方が叫びに変わり、彼女の怒りと母国への思いの強さがひしひしと伝わってきます。最後は他の人に口を抑えられ、連れていかれるというエンディングでした。

香港デモ

香港のデモの日常、その中で感じる緊迫感を詩の形式で大きく動きながら表現したもの。パフォーマーは1人なのですが、舞台袖から他の生徒たちが聞こえてくるプロテストの声や政治的リーダーの声を表現し、暴力が日常的に行われるといった重い内容でありながらも構成が素晴らしい「パフォーマンス」に見入ってしまいました。パフォーマーの彼女はインター出身の香港人なので英語が第一言語ではあるのですが、はっきりと香港への強い誇りと希望が感じられました。

レバノン大規模爆発

パフォーマーのレバノン人のRさんはいろんなことを共にしてきた私の親友。それでも、彼女のこの体験については知りませんでした。2020年、彼女が住むベイルートの港で起こった大規模な爆発を、彼女は負傷したわけではないものの周りに住む家族の生死が分からない恐怖、そして自分の街が崩壊している様子を見たときの絶望を語ってくれました。優しくもとても強い彼女ですが、死体や血まみれの道路を目にし、

「なんで私が彼らの代わりに生きてるの」

と考えたという言葉には心が痛くなりました。


今までに感じたことのない衝撃

この学校に来ている時点で戦争や強制移住などを経験している同級生がいることはもちろん分かっているのですが、普段の日常では誰も過去のトラウマは見せず、同じようなことで笑い、同じ授業で文句を言い、同じ経験に感動しています。なのでなおさら、この時の衝撃、ショックはすさまじいものでした。

日本の平和な日々しか経験したことのない私は何も本当の苦しさや悲しさ、強さを知らない。そう思い、次の日もなんだか気力がでませんでした。昨日の夜家族の死を語った人が目の前で笑顔で授業を受けている。この事実もなんだか信じられませんでした。


2年目

ウクライナ戦争

私の1つ下で入学してきた唯一のウクライナ人の生徒によるmonologue。彼女も自身は直接戦火は被っていないものの、良く知っている親戚や友達が戦争でロシア軍に殺された経験を持ちます。涙ながらに戦争への怒りを語ったあと、

「私の母国は信じられないほど素晴らしい。心から誇りに思う。」

と強く言ったことに胸を打たれました。なぜウクライナが降伏しないのか、少し疑問に思っていたところがありましたが、その理由が少しだけ腑に落ちた気がしました。そして、戦争は多くが政治の権力争いで起こるものであるのにも関わらず、最も影響を受けるのは何も関係ない国民であることへのむなしさが湧いてきました。

シリア内戦

シリア出身の生徒3人により、交互にそれぞれの幼少期のエピソードをストーリー調でつなげたもの。2011年、同級生はたった7歳の時に始まった内戦。

「7歳の時、バスから降りると血まみれの死体が目の前にあった」

から始まり、同じようなエピソードが3人のイギリス渡航直前まで続きます。想像するだけでもおぞましいそのシーンを小学生時代に日常的に経験すること、それを乗り越えて奨学金を得てこの学校に来ていること、彼女たちの「生」への思いは私とは比べ物になりません。

バングラデシュ政治

お父さんがバングラデシュの政界で力を持っているという生徒。ただ、バングラデシュでは政党の対立が激しく、しばし暴力的にもなります。過去に何度もお父さんが命を狙われ、たった昨日、間一髪の出来事があったとのこと。

「心配でたまらないし、本当はできることなら政界から退いてほしい。それでもお父さんは続けると分かっているから、私はその娘であることを誇りに思う。」

という彼女の言葉には感動しました。


生きることの幸せ

2年目は1年目の衝撃を覚えていたのでかなり覚悟をして行きました。1年目と同じく自分の無力さを痛感することには変わりないのですが、それ以上に、ステージに立つパフォーマーたちの勇気、覚悟、レジリエンスを深く尊敬しました。

そして彼らがそんな経験を経ても必死にUWCにたどり着き、複雑な状況である母国に住む家族を置いてきてしまったことへの罪悪感も感じながらも自分の幸運を活かして還元しようと懸命に生きていることを感じました。

今までの私にとっては命への危険が無いことはもはや当たり前、何もせずにただ生きているだけは悪いこととみなしてきましたが、そう感じない人たちもいる。これは大きな肯定感になる一方で、これだけの幸せな環境を努力せず手に入れることのできる私は、その幸運を他者に分け与えることは当然に思えました。


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