【UWC体験記⑳】UWY自主プロジェクト始動 ーUWC生の人生ストーリーで社会貢献を
入学から数カ月経ったある日、食堂で台湾人の同級生Mさんと座っていると、「私、Human Library開きたいって考えてるんだよねー」と言われました。
話を聞いてみると、せっかく生徒皆がお互いが驚くような人生経験を持っているのに、その有効活用が出来ていないのを感じ、それをお互いに共有する場を作りたいとのこと。私も、オリエンテーション週間後にはだんだんと普通の「学校生活」が始まり、生徒間の会話も表面的な雑談が多くなってきていることを少し残念に思っていたところだったので、なんて良いアイデアだろうと感じました。
私もメンバーに?
その時にはただの意見交換で終わったのですが、年が明けた1月、今度はMさんともう一人の台湾人のBくんと話す機会が。
「Human Libraryだけじゃなくて、もっと規模の大きいプロジェクトの立ち上げを2人で計画したの。」と言われ、詳しく聞くと、ビデオの制作などを通してUWC外にもUWC生の人生経験を伝えたいと考えていると。すごい良いじゃん!と反応していると、
「それで、Saraも私たちのチームに入ってくれない?すごい適任だと思うんだけど。」
と、びっくりする言葉を。私は最初のアイデアを聞いた時からもしかしたら私も携わらせてもらえないかなーとうっすら思っていたものの、こちらから言い出すことは出来ずにいたのでもちろん喜んでチームに入れてもらうことになりました。
他にも数人の人に声をかけていたらしく、2人からの説明会のような形の初回ミーティングが実施されました。プロジェクト名は「United World Youth(UWY)」。
きちんとしたスライドが準備されていて、2人から動機、経緯、計画内容、スケジュールなどを動画や図などをたくさん使ったとても丁寧な説明をされました。
国籍でも経済状況でも本当に多様な350人が集められたACで、お互いのライフストーリーに感動し、世界観が広がったり価値観を揺すぶられた経験は誰にもあるもの。このなんとも贅沢な経験を学校内で最大限活用することの大切さを広めると同時に、UWCに来る機会の無い若者たちにもその機会を与えたい。何から何まで共感することしかありませんでした。
そして参考までにと渡されたのがなんと26ページの提案書。これも図をふんだんに使いとても見やすい!2人で冬休み中ほぼ毎日3時間ぐらいかけて作り上げたとのことでした。
最初から最後までこのミーティング1つの準備にかけられた時間、そしてまだ始まってもいないプロジェクトの計画性には脱帽でした。初回ミーティングで伝えられたUWYの今後の活動内容は以下の通り。
最初のHuman Libraryのアイデアは一旦外れていたのですが、結局後に実現させることになり、他にもいろんな新しいアイデアを実現させることになります。
UWCでは本当に多くの素晴らしいイベント・プロジェクトが発生する反面で、どうしても一つ一つの準備時間、そしてクオリティが低めになってしまうのが残念なところ。それでも、日本の学校などでは実現がほぼ不可能なことでも何とか一応形にすることができることが魅力なのでしょうがないと思っていました。
日本での学校や少し携わったNGOなどでのクオリティ基準をこの日に久しぶりに見たことでものすごくこのプロジェクトに希望を感じ、少しでも力になりたい!と、とても楽しみになりました。
最初のストーリーの撮影
まずはMさんとBくんが既に話を通していた、パレスチナ難民の2年生のライフストーリーの動画制作を行うことになりました。2回ほどインタビューを事前に行い、彼女のストーリーの全体像を把握したうえでビデオとして見やすい8分以内に収まるように構成を一緒に考えていきます。
ただ、このタイミングで2年生のIB最終試験の模試の期間に入ってしまい、本人から今は撮影はできないと言われます。2週間何も進められないとスケジュールに響くため、他の人のストーリーを先にやろうと考えます。
そして代わりに撮影することに決めたのは…Mさん!ACに来る前に色んな取り組みをしていたことは聞いていたのですが、ここで初めて彼女が立ち上げた「Girls in the Oasis」というタバコのポイ捨て問題を解決する団体について聞くことになりました。
友達4人でビーチでのゴミ拾いに参加した時、一番多いゴミがプラスチックなどではなくタバコの吸い殻であったことに衝撃を受け、このプロジェクトを始めたとのこと。完全に自分たちで1つのたばこのケースで吸い殻のゴミ箱もセットになっているものを開発し、特許も取得。そして台湾で大きなタバコの吸い殻のゴミ拾いイベントを開催し、これが有名ユーチューバーに取り上げられたりメディアで大きな話題になったそうです。
なので台湾では彼女のことを知らない人が少ないぐらいで、もちろんBくんからしてもACに来るまでは憧れの有名人、といった存在。ですがとても謙虚なMさんは自分からその話をすることはなく、そこそこ仲の良かった私でも何か月も知らなかったのです。
このプロジェクトの価値はこういう人がきちんと発掘されて他の人が学ぶことができる、というところにあると実感しました。
そしてMさんは自分で原稿も書き上げ、私たちも初めての撮影に臨みます。台湾では何度も講演会に呼ばれて話しているMさんですが、いざカメラに向かって1人で話すとかなり緊張するようで何回も撮り直すことになります。思ったよりも話し手側にずっと負担がかかるというこの時の発見は後からとても活きました。
そして動画の撮影・編集担当のメンバーがMさんの過去の映像なども組み合わせ、BGM付きのとても本格的なビデオを作成してくれました。そのビデオがとても上手く出来ていてメンバー一同、これはいける!ととてもビデオ作成に希望を持ったのは確かです。
「人生ストーリーをビデオに」の難しさ
当然ですが動画編集にはとても時間がかかり、編集担当のメンバーも一人だけだったため、私たちは年度終わりまでにとなるべく多くの生徒たちのストーリーを収録し続けることにしました。
アフガニスタンの戦争を逃れてきた人、起業と音楽の二本に全力を注いできた人、シエラレオネで女子教育のために声を上げ続けてきた人など、毎回収録を行う度に「こんなすごい人と共に生活しているんだ」と感動するのですが、内容とは別に1つ問題が。
みな忙しいので事前に打ち合わせを何度も繰り返すことは憚られ、基本的にはぶっつけで始めから自身の人生について語ってもらいます。当然ながら話しが上手い人とそうでない人でストーリーとしての分かりやすさや構成の仕方に差が出てしまいます。
大事なところの描写が足りなかったり、分かりずらいところがある場合には後から質問をするのですが、人によっては全部で2時間近く収録にかかってしまうことも。これを5分~8分の動画にまとめるのは編集担当の人にものすごく負担がかかってしまいます。
回を繰り返すうちに私たちの質問の仕方も上手くはなってきたのですが、それでもその収録したストーリーも構成がまとまっていなく編集は難しくなってしまいます。
Mariamのビデオの公開
あと数日で1年目が終わり、一旦学校から出なくてはいけないある日。最初に収録を行う予定だった2年生とは別のレバノンに住むパレスチナ難民の1年生にいつものように収録を行いました。彼女の人生で一番の試練だったというUWCに来るためのVISAの取得について話してもらいました。
最初から最後まで一気に話しきり、終わった後も全く質問をする必要が無かったほど、ストーリーの伝え方が上手く、彼女の本当のその時の感情も正確に伝わり、とても心動かされました。
このビデオを世に出したい!とメンバーが編集してくれて完成した動画がこちらです。ぜひ見ていただきたいです。(7分)
彼女のストーリーの概要は以下になります。
BGM、字幕、構成、追加の映像素材、など全ての詳細にこだわりメンバー全員で何回も見合って完成したこの動画は、私たちの最初のYoutubeでの公開動画となりました。
公開後すぐに2,000回視聴され、最近まで私たちのプロジェクトの象徴的なものとして多くの人のお見せして「涙が止まらなかった」「自分の人生について考えられた」といった感想を頂いています。
この頃からMさんとBくんが2人で今までやってきた、プロジェクトの計画を立てたり改善点を考えたりといったプロジェクト管理に私も加えてもらい、卒業まで3人で週に何回も何時間も話し合うようになりました。
そして動画の撮影・編集担当のメンバーWさん、デザインやグッズなどの制作をしてくれるNさんと当初からは大分減った5人のメンバーで最後まで続けていくことになりました。
ストーリー共有イベントを自主開催
2年生が卒業するたった1週間前。私たちの年度末試験が終わったところで一緒に勉強していたMさんと話していると「せっかくだから卒業する2年生が主役のストーリー共有イベントやらない?」という提案が。
あと1週間で??と一瞬思いましたが話していると不可能ではない気もしてきます。イベントを開催したい日を決め、準備期間は4日間。
その翌日からまずはイベントで話してくれる2年生を探します。私たちと仲の良い2年生だけでなく、いろんな2年生を集めようと食堂や校舎内で知っている2年生にひたすら話しかけます。まだIBの最終試験中であり、卒業する数日前だというのにスピーカーをなんとか6人集めることができました。
そして開催場所と時間にも問題が。平日の夜はCouncilのセッションでいっぱいだったりとどうしても時間と場所を見つけられない。唯一の選択肢は夜の寮の門限時間以降となりましたが、その時間は教室で勉強することが特別に認められているだけでイベント開催などは聞いたことがない。
なんとか生徒のイベントに協力的な先生を見つけ、その先生に監督してもらうということで学校から許可をもらいました。前日にポスターを学校中に貼り、なんとかメールやメッセージで観客を呼びます。
そして当日。直前に「やっぱ自信ない」とスピーカーの1人に言われましたが、ここでドロップアウトされては困ると、泣く泣くお願いし、6人に話しに来てもらいます。スピーカーたちの友達など30人ほどが来てくれ、一応会場はいっぱいに。
スピーカーたちのストーリー自体に取り組む時間はなく、「10分以内で」とだけ伝え完全にぶっつけ本番で全員話してもらいました。
ここで想定外の問題が。いくら話すのは上手い人たちでも、やはり自分のストーリーについて多くの人の前で語るのは皆初めてだったのでしょう。ほとんどのスピーカーが10分という制限をオーバーしたり、少し逸れたことを話し出したりと、聞いているとよくポイントが分からないことが多い。
中身としてはすごい良いものがあるのに、完全に私たちの準備不足だったと気付きます。いつ監督の先生から強制終了させられるかとハラハラしながらやっと最後の人まで終了します。一応笑顔でスピーカー、そして来てくれた人に感謝を伝えたあと、寮の方まで帰ります。
最後にMさん、Bくんと3人になり、私が一言「結構残念なんだけど…」と本音をもらすとやはり2人も同感だった様子。
とりあえず今日は解散しよう、となりますがその翌日会うと私たち3人は昨日のショックが大きすぎて絶望寸前。他のメンバーに励ましてもらい、なんとか立ち直ります。
この時に得た、「絶対に人前で話す前にはリハーサルが必要」という教訓はその後、もっと規模の大きいイベントを開催していくにあたって本当に活きてくることになります。あの時は冷や汗をかきっぱなしでしたが今では笑い話ともなる私たちの原点となる経験です。
150万円を獲得?!
私たちは最初からLighthouseという校内にある、生徒のプロジェクトなどをサポートしてくれるところで担当の先生方にアドバイスなどをもらっていました。そのLighthouseが年度末に開催するのがLighthouse Prizeという、かなり多額の資金をもらえるチャンス。
細かいプロジェクトの提案書、予算提案書を提出し、卒業生などで構成されるパネルへのプレゼンを行い、良かったプロジェクトには最大£10,000(約150万円)が支給されます。
最初の段階でMさん、Bくんが作ってくれたプロジェクト提案書が既にとても細かかったのでそれに予算面を加え、プレゼンも何回も練習して実施します。
すると、私たちはより少ない額を申請していたのではないのにも関わらず、最大額の£10,000が支給されることに!
高校生という身で扱ったことのない大金に私たちも「もう後戻りできなくなったね」とプレッシャーを感じるとともに、私たちが信じるこのプロジェクトの価値が大人たちにもきちんと伝わったことには喜びを感じました。
オリジナルウェブサイトの試練
そして1年目の夏休みからMさんとBくんが台湾の会社とLighthouse Prizeのお金を使って契約し、オリジナルウェブサイトを作ってもらうことに。
Youtubeのアカウントは既にあるので、Youtubeでできないことをやらなくてはいけないと、以下のような機能を3人で考えました。
これだと単なるウェブサイトではなく、オンラインプラットフォームを呼ばれるものになるらしく、会社とのコミュニケーションがただでさえもとても難しい。その上、あまりデザインなどが良くなく、私たちが何回も手直しをいれたり指示を出す必要がある、と2人からいつも聞いていました。
そしてこれが数カ月続いたある日、2人から報告が。「またデザインを直してもらってたんだけど全然良くならなくて何回も繰り返し言ってたら、今日あっちから契約を打ち切りたいって言われた」とのこと。
この時点では2人もコミュニケーションにあまりにも時間を取られすぎている上、今の段階でこれだけの大金を費やしてこのプラットフォームを作る価値がどれだけあるのか。Youtubeでもある一定のインパクトは与えられるのに、いくら賞金とはいえお金の無駄遣いはできないよね、と一旦オリジナルウェブサイトの挑戦は辞めることにしました。
そして2年目は思わぬ学業での忙しさにより動画担当のメンバー1人に編集を頼ることは出来なくなり、ビデオ制作自体も思うように進まなくなります。
2年目には当初の予定にもあったように、UWY自体をCASとして、追加のメンバーも迎えて活動を拡大していこうとしたのですが、CASへ加入した人数が思ったよりも少なく結局はあまりUWYのプロジェクト運営とは関係なく1年間色んな生徒へのインタビューを行うだけになりました。
その反面、2年目は私たち5人は全校規模のHuman Libraryの開催へと、思わぬ方向転換を遂げることになります。こちらで大成功し、そして年度の最後には完全に新しいプロジェクトとして本の出版に挑戦します。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?