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「木霊する記憶」

昔 もう遠い昔
あなたはよく云ってたね
こんなはずじゃなかった
おまえさえいなければ

砂まみれになった 両手を広げて
駆け寄った私を 払い除けた あの日

そんな覚えはないと
あなたはさらりと云ってのける
もうだいぶ色あせた
髪を 夕日に晒して

  時は残酷に
  こうして あなたを連れ去ってゆく
  まだこれほどに
  疼いたままの 傷痕を見捨てて

おまえさえいなければ
私はもっと高く飛べた
掴めるはずだった光は
おまえに 潰された

くちびる噛み締めて 震わせた喉が
零したあなたの声 木霊する 今も

一体何のことかと
あなたはすり抜けてゆく
いくつになってもおまえは
私をいじめるんだね と

  記憶は残酷に
  そうしてあなたを連れ去ってゆく
  まだこれほどに
  疼いたままの 傷を置き去りにして

おまえさえいなければ
駆け寄った私の耳に
あなたの声は 木霊してる 今も

  言葉は残酷に
  夕日とともに暮れてゆく
  あなたが零した言葉たちは
  私の中に 溜まったまま

  時は残酷に
  こうしてあなたを連れ去ってゆく
  長く伸びた翳さえ
  溶け合うことのないまま

―――詩集「家路」より


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