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蜜柑色の金糸雀

 ホームセンターの匂いは何処も共通している。園芸エリア、工具エリア、材料エリア、日用品エリア等、各エリア毎にも特有の匂いがあるが、それらを継ぐ通路の匂いは、「ホームセンターの香り」とも言うべき匂いに満ちている。そしてそれは不思議なことに、系列、新旧を問わず、極めて似通っている。

 洋三はホームセンターが好きだった。但しこの「ホームセンターの香り」は本来受け付けない匂いであった。何故耐えがたい臭気を圧してまでホームセンターに惹かれるのか。それはペットコーナーが存在するからである。ここで大切なのはペット用品コーナーでは無く、ペットを取り扱っているコーナーの事である。したがってペット用品と書いてある案内板に従って、心躍らせそこまでいったは良いが、ペット用品ばかりがあふれており、肝心のペットが極僅かであったり、はたまた扱いが無い場合等は、目に見えるように落胆してしまう。

 妻の真帆の目的の大半は、日用品を安価に取得する事にあるので、ペットの有無には拘泥しないのであるが、洋三にとって幸運なことに息子の世界と価値観が一致している為、民主主義の原則により、遠くてもペット取り扱い地域No.1のこの店舗を毎回利用する権利を勝ち得ていた。

 但し、自分の1票よりも世界の1票の方がはるかに重いだろうことは気づかないことにしている。

 真帆が日用品狩りをしている間、男子二人は他には目もくれずペットコーナーに向かう。

 極彩色のカラーリングを施した蟹、自分のお尻を追いかけている子犬達、様々な耳をした兎達、忙しげにゲージの中を飛び回る栗鼠、鉄板のお焦げを落とすのに最適そうなピグミーヘッジホッグ。各々がそのルーツ、生育環境に関係なくひしめき合っている。世界は自分の観た生き物を洋三に紹介したくて、しきりにねぇ観て観てや、こっちこっちを繰り返しているが、洋三は自分の好奇心を抑えられず、大人としての威厳を損なうほど没頭していた。

 しかし手前勝手に生き物を物色していた二人が、同時に目を留めて、黙って見つめる籠があった。正確には籠の中の鳥に引き寄せられていた。頭は扁平で眼は小さく、体はズングリしている。羽毛の色は蜜柑色なのだが少し斑である。少なくとも恰好よくはない。否、はっきり言って不細工である。しかし奇妙に惹かれる何かを有していた。

 小首をかしげる不細工な鳥の籠にはプレートがあり、「金糸雀(ノーウィッチカナリア)」

と書いてあった。「きん・し・スズメ?……カナリア!?」

 それが包家最初のペット、ウィッチとの出逢いであった。


〈掲載…2013年 「風雅」カタログ〉

★製品「カナリア」にちなんで作られたお話です!
「カナリア」製品ページ

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