占い

 真帆はカードが巧く切れない。

 幼少の頃、親族が集まった折、酒宴に明け暮れる大人達に合わせて、その時ばかりは夜更かしをきつく咎められる事が無いのをいい事に、様々なゲームに興じたのを覚えている。人の一生を模したゲーム、資本主義を具現化したゲーム、そして各種のトランプ遊び。

 大体は年かさの従兄がカードを切るのだが、彼はゲームではてんで勝てない癖に、カード裁きだけはなかなかのものだった。いざゲームが始まると頭を掻いてばかりいるのだが、ゲームが終わってカードを集め、カードを切って采配するまでは彼が王様のように振舞う。その得意げな顔を思い出し、そしてその後の惨敗具合とを照合すると、二十年近くたった今でも口角が上がるのを感じる。

 そんな従兄は実際の人生でも学生までは順風だった。社会人になると、どうにもいけない状態が続いて、結局はカードを場に戻す事を余儀なくされて久しい。

 それも今の真帆にとっては雑念に過ぎない。今は掌中のタロットに意識を向けなくては。

 束の上から約四分の三程度を側面からそっと挟み(この時、挟む強さは強すぎても弱すぎても駄目)、最初はそっと斜め25度程度上方に引き上げる。そして基の束を少し追い越すように突き出し気味で再度重ねる。肝要なのは接地と同時にやや指先の力を緩め、ほんの少しカードを残す形で、再度斜め上方に引き上げる。これを繰り返す事によってカードはシャッフルされる。当然の事ながらこの指先の力加減が悪いと、永遠に引き上げる組のカードが減らないか、若しくはぶちまけてしまう結果を生む。

 真帆はこの力加減が決定的に下手なのだ。

 購入以来、まともに力を発揮した事がないタロットカードを今日もぶちまけた後、先の見えない漠然とした不安を抱えずに居られなくなった真帆は、救いを求めるかのように天を仰いだ。

  ひとしきりの雨が止んだ空に、珍しい程の虹が輝き、気のせいか自分に向かって架かっているかのように思えた。

 虹に救われた真帆は、不器用な右手を下腹部に当てている。

 自身も気付かないうちに……。


〈掲載…2011年 会社概要〉

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