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墓を洗う


小さな花束が流されているのを、河川敷から見た。見つけたそのとき、束ねていた帯がひらと解けて、包みが広がり、散り散りになった花は浮かび沈みしつつ河の流れをゆくのだった。私に見られるのを待っていたようだ、しかしなぜ、と胸の内に独り言ちた。
窓を拭いた。朝日に白むガラスのように、墓石を拭いたのは半月前の事だった。母の墓である。墓を洗うのに使い古しは許されないという慣習をいつか耳にした覚えがあり、信仰があるわけではないが新品の雑巾を使った。窓を拭きながら、墓に雑巾を置いてきてしまったと思い出した。母の最期の言葉は、あやまっておいて、だった。誰に向けたものか分からないでいる。



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