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本格度は現地以上? 台湾に入り浸るライターでも外せない料理店が、東京にある。

ライター 奥谷道草

【有料記事として配信予定でしたが、無料にて公開中です】

台湾人の先生から教わった、折り紙付きの店

台湾さんぽに魅入られ早10年、足繁く通ううちにオジサン目線の台湾さんぽ本を上梓、穴場店へ連れて行ってくれる友人が各地にいるぐらい馴染んできた。こうなると台湾料理は主に現地で食べるようになるし、店を選ぶ目も厳しくなる。そんな小生意気なオレですが、東京都内にも外せない店はあって、それが『天天廚房』であります。

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この店にハマりこむ人はおそらく2種類。まずは国内外関係なく美味いモノならなんでも来いの守備範囲の広い食いしん坊。それと台湾でさんざん食べ回ってきた手練れ。海外にもよく行く料理研究家や食のセミプロなども訪れます。自分も華語=台湾中国語を教わっている食いしん坊な台湾人の先生から教えていただいた店でして、本格度は折り紙付き。

敷居が高いわけでもない所も良いです。京王線千歳烏山駅から徒歩7分。地元御用達の奥まった商店街のただ中にあります。カウンター10席+4席の小テーブルという小ぶりな路面店。ちょっと洒落てる町中華の佇まい。予約した方が無難、少人数向けですね。

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店主は謝(シェ)さん。台湾北部の基隆生まれで南部の高雄で料理を習得後、日本料理を学びに来日、その後パクチーブームの要となった経堂の名店「パクチーハウス(閉店)」で料理長を経て独立。前の店の沿線という親近感と、使い勝手のよさそうなサイズ感でこの場所を決めたとか。知らないと行き着けないロケーションに穴場感が漂います。

ところで台湾料理とは何か? ざっくり言って海峡を隔てた中国大陸から、民族ともども様々な形で渡来した中国料理が、台湾ならではの食材と風土に結びついて改良されたもの。味付けも素材の味を活かしたさっぱり味から油ギッシュな揚げ物系、鍋ものまで様々。またベジタリアン料理も生活に溶け込んでいる。飲み物も多彩。食いしん坊ぞろいの台湾人の暮らす九州大陸サイズの島に、無数の美味がぎゅっと宝石のように詰まっています。日本で食べられる台湾料理はその中のごく一部。

小籠包は、あえてナシ

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『天天廚房』では元来上海料理である小籠包を、台湾料理の代表と思われるのは抵抗があってあえて置かず、真の台湾料理の定番をメインに揃えています。

代表的な品は、麵線(ミェンシェン)=品良く煮込んだモツを乗せた餡かけ風麺スープ・ミニ429円、割包(グァバオ)=特製スパイスで2日間煮込んだトロトロの豚肉を挟んだ蒸しパン包み539円、蚵仔煎(オアジェン)=台湾産サツマイモ粉を生地に使い、特製醤油ソースでこざっぱり食べる台湾風カキオムレツ1,320円など、豊富な料理経験を元に素材を吟味、台湾から食材を多く取り寄せ、自家製調味料ソース各種でもって、深みと品のある美味に仕上げている。現地の下手な店よりずっと美味いんですよ。

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それゆえ台湾の夜市や雑踏の露店で適当に食べた味を求めて行くと(それも美味だけど)こんな味だったかな? と首を傾げるかもしれない。一方、現地で食べ慣れている食いしん坊には、あの料理こんな風に味を昇華させられるのか……としみじみ感嘆したりする。

伝統的台湾料理と日本酒の組み合わせ

さらにこの店の特質すべきは、酒と台湾料理のベストマッチを模索している点。実は台湾料理って、現地では食事中酒を飲まないのがスタンダード(食後飲みに行く)。なので料理に合わせる酒の扱いは基本ぞんざいなんです。謝さんは伝統的台湾料理を日本酒やワインとマッチさせるべく、味や供し方を工夫している。その姿勢がよく出ているのが、日替わりの前菜盛り1,650円~と言えます。台湾のローカル感と日本の季節感をまとめて味わえるお手軽なひと品。繊細かつ品の良い味つけで見た目もキレイ。台湾料理=屋台メシぐらいに思っていると、嬉しくひっくり返されます。

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この日の前菜盛りは、奥から紅糟鴨(ホンザオヤー)=新竹の名物料理・自家製の紅麹の酒粕をかけた燻製カモ肉。口水雞(コウシュイジー)=中華のヨダレ鳥をアレンジ。自家製ラー油ソースで。蘿蔔糕(ロォブォガオ)=台灣スタイルの大根餅。涼拌乾絲(リャンバンチィエンスー)=香菜とセロリと千ぎり豆腐の和物。そして一番手前にある台湾名物の烏魚子(ウーユーズ)=カラスミも、一見ただの切り身みたいだけど、台湾雲林産の品を台灣紅茶で燻製し、塩と黒胡椒を乗せた凝った品。紅茶のほんのりした甘味がカラスミの塩味と組み合わさり、粒胡椒がアクセントとなって味を引き締める。芳醇複雑な味わいにびっくりします。そしてボリューム的にも酒のツマミにピッタリ。

謝さんのオススメは日本酒。燗の酒がよりマッチするとか。確かにさっぱり目に仕上げてあってよく合うんだなあ。

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スィーツもぬかりなし。宜蘭花生捲(イーランフォアシォンジェン)=台湾東部・宜蘭の名物で、甘酸っぱいアイスとピーナッツ、パクチーのクレープ包み979円。冷たさと具の取り合わせが新鮮で、口がちょうどまとまります。

おまかせコースで、思わぬ美食に出合う

また現在「台湾一周旅する料理」と題して、月換えで郷土料理紹介、台湾をぐるりと一周なんて事もやっている。多彩な台湾料理の一端を知ることのできるいい機会だ。

1番のお薦めは予算を相談してのおまかせコース。謝さんの頭には作りたい台湾料理が渦を巻いているので相談してまかせてしまったほうが思わぬ台湾美食に出合えます。これをお目当あてに月一で北海道から通ってくる熱心な常連さんもいらっしゃるとか。

身勝手な創作系に走らず、単なる郷土の味の再現でもない。郷土に根ざしつつ、さらに上の美味さを真摯に目指す。大げさに言うと、そんな探究心が爽やかな緊張感となって店内に漂っております。

台湾好きはもちろん、料理研究家も満足

個人的には世界を食べ歩いている料理研究家のTさんとか、台湾さんぽ本の担当編集者さまなど、タダ者ではない台湾好きと行った時も大好評でありました。問題は食べることに神経が集中して場を沈黙が支配しがちなところか。東京に来る台湾の友人にも勧めています。

イザという時の大人エスニック。機会があればぜひ請吃吃看!(お試しください)

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撮影/金井塚太郎

*新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、現在臨時休業中。5月下旬~6月上旬より、テイクアウトのお弁当販売から再開の予定。詳細はFacebook又はinstagramで確認を。



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