呉市議会谷本議員と高橋氏がAIRDO社から降機を命じられたことに関する考察
2022年2月6日、広島県呉市議会議員の谷本誠一氏とジャーナリストの高橋清隆氏が、ノーマスクで北海道の釧路空港発羽田行きのAIRDOの航空機に乗ろうとした際、1時間近くにわたりマスク着用を求められた末、安全阻害行為に当たるとして降機させられた上、釧路警察署で約1時間任意の事情聴取を受けたと報じられました。
事の詳細については下記の高橋氏のブログ記事をお読みください。
この問題に関しては、谷本氏および高橋氏の主張は人権に則ったものであり、降機を命じた機長の行為は人権侵害。マスク着用をお願いした客室乗務員はマスク着用の強要罪という主張をしている方々が多数いらっしゃいます。
確かに意に沿わない行為を強要されることは憲法で禁じられていますし、個人の自由が保証されていることは疑うべくもありません。
ただ、ここで谷本議員と高橋氏が完璧に間違っていることがあります。
それは「人権は無制限に保護されるものではない」ということです。
高橋氏が主張する憲法違反とは何か
ここで、高橋氏が述べている憲法違反とは何かをちゃんと考えてみたいと思います。氏はブログ上でこう述べています。
では、ここでいう日本国憲法22条を確認してみましょう。
確かに何人も居住、移転、および職業選択の自由を有するとあります。
しかし、この条文には一定の条件がつけられています。それが
「公共の福祉に反しない限り」
という条件です。
この「公共の福祉」というのはなんなのでしょう?
公共の福祉の定義とは
公共の福祉(こうきょうのふくし)とは、Wikipediaによれば以下の定義によるものとなっています。
さらに中学社会の教材(進研ゼミ)にもこのように規定されています。
これらを総合すると、「公共の福祉に反する行為」というのは
1、他人の人権を侵害するような行為
2、他人の人権が守られないような行為
3、社会全体に悪い影響を及ぼす行為
上記3つに当てはまる行為だと考えられます。
上記3つの場合、たとえそれが人権から発露されたものであってもその効力を発揮することを憲法が制限するものと解釈できます。
谷本議員と高橋氏が主張する行為と公共の福祉との兼ね合い
では、最初に戻って、谷本議員と高橋氏の主張する「マスク着用拒否」の行動が、この「公共の福祉に反する」に適うかどうかを考えてみましょう。
谷本議員と高橋氏は上記ブログでこう述べています。
日本国憲法第19条には「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」とあります。両氏がその信条に基づいて「マスク着用を拒否する権利」は守られてしかるべきものであると考えます。
しかしながら、その権利行為が公共の福祉(この場で言うなら航空機内にいる全員の社会的利益)に適っている行為かどうかというとこれはまた別の問題だと考えます。
現在は「新型コロナウイルス感染症」が世の中に流行し、その感染症予防の一環で人々はマスクを着用しています。
そして航空業界に限らず、鉄道、バス、タクシーに至るまで、およそ公共交通機関はマスク着用での乗車が励行されております。
これらはマスクが感染症予防にどれほど効果があるのかの科学的裏付けはわかりませんが、マスク着用が飛沫を抑制することは証明されております。ウイルスは飛沫及び空気感染する可能性が高いわけですから、飛沫を抑制するということが感染リスクを下げることは子供でもわかる理屈です。
また、マスクは飛沫を飛ばさないだけでなく、第三者からの飛沫を受け入れないという二重の効果も持っております。
新型コロナウイルスに感染したかどうかは抗原検査やPCR検査を行わねばわかりません。今は問題なくても数日後に陽性になる可能性はゼロではありません。その場合、マスクをしていたか、いないかによって、ウイルスの接触者となりえるかいないかが分かれます。
つまりマスク着用が感染症対策になるかならないかではなく、万が一新型コロナウイルスの感染者になっていた場合、マスク未着用は第三者に迷惑を及ぼす可能性があるということです。
これは公共の福祉に明らかに反する行為だと思います。
また、航空機には44名の乗客がおりました。マスク着用拒否は思想信条を理由にしたこの2名のみです。彼ら以外の乗客がマスク着用をしていたとなると、彼らの言う人権は「公共の福祉」に反することは明らかでしょう。
上位法、下位法の理屈を持ち出している論調について
この件に関しまして、ある方よりこのようなご指摘を受けました。
この方の主張は「人権は我が国最高の法である憲法で守られている」だから「下位法である航空法は憲法を覆すような内容を規定することはできない」
というものです。
この認識は間違っていません。法の概念から見ても正しいと思います。
ただし、本件の場合、谷本議員と高橋氏が主張している「人権」が航空機内における「公共の福祉に反する行為」であることはこれまで述べてきた通りです。
日本国憲法における人権は「公共の福祉に反しない範囲」において効力を持つものですから、谷本議員と高橋氏が掲げている人権は、残念ながら憲法で保護される種類のものとは言えないと考えています。
谷本議員と高橋氏を容認している方々は、揃いも揃ってこの「公共の福祉」という概念をすっ飛ばして考えていらっしゃる方が多いのではないかと思います。
機長の判断について
谷本議員と高橋氏の主張している人権が、公共の福祉に反する内容であるという一定の結論を導き出したので、ここからから先は機長の判断に妥当性があるかを考えます。
まず、第一に、航空機は私的企業の所有物です。今回で言うなら株式会社AIRDO社の所有物です。従って、乗客はAIRDO社が定める国内旅客運送約款に定める内容に従う義務があります。
AIRDO社の国内旅客運送約款には以下の定めがあります。
つまりAIRDO社の航空機に搭乗する(乗客になる)ということは、この約款に同意し、なおかつ係員(客室乗務員)の指示に従うことを義務付けられているということになります。
約款は契約事項です。よって「申入」と「受諾」で成立します。
AIRDOは乗客にこの約款を「申入」し、乗客はこれを「受諾」しています。それは航空機の搭乗予約によって成立しています。
よって、谷本議員も高橋氏も航空機に搭乗している以上、約款に従う義務があります。
その義務を「思想信条の自由」を持ち出して怠るのは言語道断です。法律以前の問題です。
さらに今回、谷本議員と高橋氏は客室乗務員の指示に従わず、マスク着用拒否行動を続けました。その結果、機長より航空法73条によって降機を命じられています。
谷本議員と高橋氏を支持する人たちの多くはこのように主張されています。
この手の人たちは、科学的根拠がない、マスク着用はお願いであって義務ではない。強制ではない。だから従う必要はないという論調で主張されています。
また高橋氏も
前述のツイートの人たちや高橋氏が根本的に間違っていることは
そういうことは会社の上層部や業界関係者に言え
なんです。
現場の機長や客室乗務員らは会社の指示に従うしかありません。それが組織の秩序というものです。現状はマスク着用を励行するように指示されているわけですから、論文やコメントだされて
「ああ、そうですか。わかりました」
となるわけがありません。
仮にそうだったとして、ルールを守らなかったら、機長および客室乗務員が責任を取らされます。そんなリスクを背負えるわけがないでしょう。
また、AIRDOの国内旅客運送約款には以下のように規定もあります。
上記約款において、谷本議員および高橋氏の行動は上記(二)(ホ)(チ)が適用されたと考えられます。
彼らがマスク着用を拒否する行動を「思想信条」とするのは彼ら個人の自由ですが、その結果、他の乗客に不快感を与え、なおかつ健康不安を引き起こし、安心して乗機できない状況を作っていることの原因はすべて彼らにあります。
そして客室乗務員が何度もお願いしているのを拒絶している以上、(チ)の適用は明らかです。
この約款は契約事項です。航空会社がお客様に申し入れを行い、お客様はそれを承諾して乗機しています。よって、彼らの行動が約款の第14条に触れる以上、航空法云々の前に、約款上で彼ら二人が降機させられるのは、当然のことであると考えます。
これを「機長の横暴」と述べられている方の気が知れません。
自分たちの行動に責任をとらない谷本議員の態度
高橋氏のブログによると、機長の命令書を提示された際、客室乗務員とお二人のやりとりが記載されています。
客室乗務員は「マスク着用をお願い」しています。また約款にも乗客は客室乗務員の指示にしたがうことを義務付けられています。
強制か強制じゃないかではないのです。
客室乗務員の指示に従うか従わないかなのです。
そもそもの「話の次元」がズレているんです。
機長および客室乗務員は乗客を安全に目的地に送り届ける義務があります。その義務を履行するため邪魔をする行為をしているのは、谷本議員および高橋氏以外にあり得ません。
約款を無視し、憲法で保証されない「公共の福祉に反する人権」を主張し、航空機の運行の邪魔をした。これは降ろされても致し方ないと思います。
さらに高橋氏はこう続けています。
高橋氏のこの発言(上記太字)にあるなんの法律を違反してるのかさっぱりわかりません。なおかつ警察に逮捕してくださいとお願いするとか、刑事訴訟法を知らないのかなと思ってしまいます(警察官は現行犯か逮捕状がないと逮捕できない)
谷本氏がコロナを信じていないのは個々人の自由なのでそこは否定しませんが、施設に入るのに除菌行為をすることはコロナに関係なく大事なことだと思いますけどね。
ここで谷本氏が言っている「感染症の存在とそれが怖いものかどうかのエビデンス」を警察が出す必要性は全くありません。なぜなら施設に入るのに必要な要件は施設側は決められるものだからです。
谷本氏は任意で協力していると言っています。任意で協力するなら、除菌にも協力するのが筋でしょう。
もっとも、谷本氏がコロナ陽性だった場合、除菌を拒否した結果、感染が蔓延した場合の全責任を取るとおっしゃるのであれば理解しないでもないですが。
また、谷本氏は後日、テレビ朝日の取材に対し、離陸に遅延が発生したことについてはこう述べています。
飛行機を離陸させない判断は機長が行なったことは間違いありません。そしてそれを判断させた原因は谷本議員と高橋氏が国内旅客運送約款に則って客室乗務員がお願いしたのマスク着用を無視したことです。
それを「自分たちは悪くない。悪いのは遅らせる判断をした機長だ」というのは子供も真っ青の理屈だと思いました。少なくとも大の大人が主張することではありません。
私は個々人の主義主張、思想信条は理解をしているつもりですが、それを公共性の高い場所でも主張するのは、ただのわがままとしか思えません。
そのわがままによって、生じた責任を自分が全部取るというのが物事の筋道でしょう。しかし、その責任を一切取らず、すべての責任を機長になすりつける。こんな卑劣で幼稚な責任転嫁を私は見たことがありません。市議会議員云々以前に、一人の人間の行動として全く容認できないです。
コロナは陰謀。エビデンス云々は詭弁にすぎない
本件をめぐっては、呉市議会も重く受け止め、政治倫理審査会を開催を決め、2月17日(木)に開催が決定しています。
TBSニュースによると、呉市に対し2月9日午後5時までに、谷本議員の行動に意見する電話やメールがおよそ450件届いていたようです。
それでも谷本議員は新たな燃料投下に余念がありませんでした。
ジョークかと思いきや、本気のようです。
「コロナはエビデンスがないから陰謀」というのは主義主張としてはわからんでもないです。ただ、コロナで亡くなっている人のことを「なんらかの別の病気で亡くなっている」とエビデンスも示さずに断言するのは亡くなった方への冒涜に値する発言だと思います。
谷本氏が大きく間違っているのは、自分の思想信条を信じてそれを貫く行為が、他の他人に対しては「聞きたくもないものを強要されている」行動につながっていることに気づいていないことです。
そして新型コロナに関しては、エビデンスだの証拠だおっしゃるのに、上記のようにコロナで亡くなったいる方は「別の病気で亡くなっている」とエビデンスもない状態で力説される。
私はあまりにも都合が良すぎる主張だと思いますね。
呉市の政治倫理審査会がどういう判断を下すのかはわかりませんが、次の統一地方選挙できっちりと有権者の皆様の判断を受けていただきたいと思います。
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