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エレカシ新春ライブ2022 雑感 エレカシのエレカシたる所以を再発見した一日

エレファントカシマシによるライブは実に久しぶりである。
40年近き歴史がありながらもここまでバンド活動に空白が生まれる事は決して無かった。

一年以上の空白期間の中、或いは宮本は次なるバンドの節目たる35周年までエレカシでの活動は行わないのではあるまいか。そういう一抹の不安さえ覚えた。その不安は昨年の恒例の野音未開催によって愈々高まった。然し予定調和で行かぬのがロックバンド・エレカシの醍醐味というのだろうか、二年ぶりに新春ライブの開催が決定したのであった。
俺は当日が来るのを只々楽しみに、宮本の言説を借用するのならば「お祭りの日を待つ子供のように」待った訳である。

久々のエレカシライブにおいて密かに注目した事は大まかに二つ。一つはエレカシ然(それはバンドの空気感及び性格、演奏のクオリティ等々あらゆる音楽的要素)としたものがどのように進化したのか或いは退化してしまったのか。もう一つは宮本浩次ソロ活動によって増えたファンと従来のファンがどのように呼応してどのような空間を作るのか、である。
前者は説明するまでもないが後者については一応簡単に説明しておく必要があるだろう。
ソロ宮本とエレカシ宮本との最たる違いは(それは三年以上のソロ活動によってその輪郭はより鮮明になってきた)アイドル性の有無である、というのが只今の結論だ。ソロの宮本は必然的にアイドル性、タレント性を帯びる事が要求されている。ある種のサービスを要求されている。それは新規のファンを獲得する為に他ならない。その為にメディアの露出、楽曲のポップ化、慎重な楽曲制作をしてきた訳だ。(これは言うまでも無く否定的な意味を含まない。例えば普段音楽や歌詞に興味の無い一般大衆の中から新規ファンを獲得する為に『遁生』や『覚醒(オマエに言った)』等々の楽曲を提出した場合、日本のポップミュージックシーンの文脈から大きく逸れ結果的にファンの増加は少なくなってしまう、という事は異論はない事だろう。)対してバンドというものは長きに渡る歴史の中で獲得し、培われたファンがいる。バンドに対してのアイドル性及びタレント性はそこには要求されない。故にメディアの露出があろうが無かろうがファンは一定数以上付き更には所謂ポップシーンの文脈から外れた強烈で尚且つエレカシというバンドを構築している、いわばバンド自体アイデンティティとなるような楽曲(例えば『男は行く』や『曙光』、『歩く男』等々)を演奏し聴かせても従来のファンは離れる事は決してありはしないのだ。ソロとバンド楽曲制作と新規ファンの関係性を簡単に表すと以下の様になる。

ソロ=楽曲制作の自由度は限られているがよりファンを獲得できる可能性がある
バンド=制作の自由度はあるが新規ファンを獲得できる可能性が比較して少ない

以上の事柄からソロのファンとバンドのファン、この両者は求める音楽性も真逆であり対立関係にならざるを得ない。ソロファン、バンドファンが渾然一体となるライブでファンらは如何なる眼差しでバンドを見るのか、宮本及びバンドは如何なる楽曲をチョイスし如何なる演奏を成すのか、そして結果的にどのような場になるのか。それが最もな期待であった。

俺の席は最高だった。今まで行ったどのエレカシライブよりも奏者との距離が近しかったのだ。

今回のライブを総論するとエレカシはこれからもエレカシとして、と宣言しているようなライブであった。
開幕早々からいつも通り静かに登壇しての『うつらうつら』『奴隷天国』『デーデ』『星の砂』『いつものとおり』『浮雲男』従来ファンの願望を満たしつつも第二部での『ズレてる方がいい』『風に吹かれて』『ハナウタ~遠い昔からの物語~』『笑顔の未来へ』『桜の花、舞い上がる道を』というポップな楽曲も聴かせる。新規ファンにも従来のファンにも媚びる事のないようなセットリストである。
宮本のインプロビゼーションへの当意即妙な返答も空白期間を感じさせぬ程すさまじかった。決して演奏が安定している訳では無く常にワイルドな演奏だ。ここがソロバンドの違いにしてエレカシのエレカシたる所以である。宮本もバンドも最後まで息尽きる事なく、観客に飲み込まれる事なく『待つ男』で優秀の美を飾った。まるで憤怒するかの如き歌声と去り際、それに呆然と立ち尽くす観客たち。最初から最後までエレカシのシナリオ通りと言ったところだろうか。
さて、では観客の方はどうだったかというとバンドのサウンドにひきずり回されていた感が拭い去れない。新規ファンそして宮本のソロ活動に今や慣れた従来のファンをも含めて。エレカシという強固な鉄壁の中に入って行けないという印象を受けた。戸惑いや驚き等々がそこには芽生えていたのかもしれない。感覚としては(ソロではあるが)2019年10月18日のMステにおいて『Do you remember?』を披露した時、その時視聴者が感じた感覚と些か似通ったものを感じた。唖然、驚き、恐怖、凄然さ等々。今回のライブの感想としてTwitter上では賛否両論であるような気がした。それは上記の事が理由なのでは無いだろうか。
然し俺はその賛否両論な舞台が素晴らしいと思った。音が空中分解しそうなそのギリギリで披露されるスリリングさ。決して完成される事の無い演奏と歌唱。その野生性がエレカシの醍醐味ではなかろうか?

今回のライブ、セットリストもパフォーマンスも演奏も最もエレカシらしい良いライブだと俺は思った。そして今回のライブは向こう五年程の基準となる、そんな気さへした。そしてますます次にリリースされる予定の四人のみでのミニアルバム(宮本は以前雑誌・ROCKIN'ON JAPANにてそう語っていた)の出来が楽しみになったのである。

ソロでは感じる事の出来ないエレファントカシマシの感覚を今回のライブで俺再発見した。

追記
成治さんのビジュが爆発してた。

(了)


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