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2021年度拙作俳句集 謹賀新年に変えて

恥はむしろ晒した方がホントウだろう。

種田山頭火『其中日記』

第一部

春嵐来たりて路傍の花落ちる 三月廿一日
雨瀟瀟未だ一人の我が身哉  四月十四日
飛び立つに羽毛スゝ゛メ哉  四月十五日
春雨を聴きつゝ独りの我身哉 四月十七日

吉祥寺及井之頭線ノ景

春風に独り打たれて井の頭  四月十八日
子供泣く背中濡れたる親父哉 四月十八日
我目見て泣き止みたる子に罪は無し 四月十八日
窓の内いつかの我等は窓の外 四月十八日

久方の祖父の震える指みたり 四月十九日
窓を開け絵を描く静寂夏近し 四月廿二日
往来を行き過ぎたる人私哉  四月廿六日
喧しきバイク轟筆折れる   四月廿六日
新しき鉛筆削りて屑折れる  四月廿六日
乾風に行く末示されし我手哉 四月廿六日
晩春や遠くで聴こえる電車哉 四月廿八日

想像の海

久方の幻を見る夏の海 四月廿八日
海を見つ来る春待ち過ぎる春 四月廿八日
たった独り秋の海見る或る午後に 四月廿八日
冬の海刻一刻と白化粧 四月廿八日

風邪ひきて家族の優しさ身に沁みる 四月廿八日
車窓から見える緑と青き哉 四月丗日
車窓から見える緑は夏気配 四月丗日
晩春や僅かに北の風が泣く 四月丗日

恋の未練

春雷や告げるは恋の終わり哉 五月一日
虚しきに女の影が忍也 五月九日
時が経ち或る夏と君遠くなる 五月十日
恋人を知りて虚しき我身哉 五月十日
春過ぎて恋の気配も何処やら 五月十五日
街をゆく日常通りの独り哉 五月十五日

夢を見つ来訪待ちつ過ぎ去りぬ 五月十七日
霞む空忘却の中の川遊び 五月十七日
明日の日や何処にあるやら夏の午後 五月十七日
遠き峰五月雨薫り霧昇る 五月廿二日
将来は五月雨響く一夜哉 五月廿二日
直ぐに去る五月の風が吹きゆきぬ 五月廿八日

十九歳、私という人

未だゆく独り我道高き空 六月一日
夏の風何時かの恋に涙する 六月一日
喜びに悲しむ我心空の如く 六月六日
歳増える死にゆく我身を傍観す 六月廿三日
梅雨生まれ何に尽きても雨降りぬ 六月廿三日
肉体の裡より出し遠き夢 六月廿三日
夏盛り湿った恋など何処やら 六月廿三日
炎天の涼しき彼女は日々遠く 六月廿三日
十八の来し方思うは最後の日 六月廿六日
目覚めたり思ひし時は誕生日 六月廿七日
来年の我身を案じる十九の夏 六月廿七日
一時の悲しみ忘れたる友人や 六月廿七日

電灯を灯し読書す雨の深夜 六月丗日

第二部

暗き七夕

七夕に自殺者思う独り哉 七月七日
曇天に今年も会えぬ二人哉 七月七日
夜の間に女と歩んだ所沢 七月七日

梅雨の晩未だ打たれる心哉 七月八日

九十九回目の鴎外忌に

過ぎ去りぬ巨人の足跡追わむとす 七月九日
栄光の果ては一人の男哉 七月九日
鴎去る時も行き過ぎ鴎外忌 七月九日

久方に筆を持ちたる夏の午後 七月十六日
有明に先考を訪う親父哉 七月十六日

あゝ恋は悲しき

美しき女の乳首に映る罪 七月十七日
性欲の悲しきを知る夏の汗 七月十七日
野には花空には月と涙哉 七月廿日
澄み渡る消え去る恋もまた開く 八月廿三日

第三部

秋風に騒めく木々の落ち葉哉 十月廿九日
秋星を見せる墨水船がゆく 十月丗日

続・あゝ恋は悲しき

微睡にかつてのキスを思い出す 十一月八日
淋しきは春の孤独に似ていたり 十一月八日
淫雨降る君に電話をかけたばや 十一月九日
淋しきをアルコールにて取り払う 十一月九日

絶望は己が招きし明日哉 十一月九日

散歩の景

待ち人は遂に来らず秋の空 十一月十二日
待ち人を待ちつ待ちつゝ秋の風 十一月十二日
裏路地に忘れ去られし秋の風 十一月十七日
武蔵野の秋も終わりに近付いて 十一月十七日
古本を独り購う秋の暮れ 十一月十八日
土手に立つスゝキの原の光哉 十一月廿日
洛陽の頃の落ち葉は影長く 十一月廿日
風吹けばスゝキの原の光哉 十一月廿二日
木枯らしに忘れ去られし物語 十一月廿九日

第四部

冬枯れに負けぬ茂みの緑哉 十二月二日

荷風誕生の日に

永き夜は実には短世の風なりけり 十二月三日

冬空やガラスを叩く羽虫哉 十二月四日
武蔵野の幻を見る師走哉 十二月五日
青春の終わりにイチョウの落ち葉哉 十二月六日
冬の朝鋭い空気望郷 十二月七日
冬空に流れる寒きは殊更に 十二月十五日
寒空に一つ晒される街灯 十二月十八日
木枯らしに闇夜の静寂春遠し 十二月廿七日
木枯らしや今年も成せず何事も 十二月二十八日

二人の友の年賀葉書に記

初富士や友に送りし葉書哉 十二月丗日
遠方の友に送りしフジハガキ 十二月丗日

徒然なる儘に俳句を作り初めしより早一年。何も駄句なり。俳句の体をなさざる句、文法の誤りも少なからず。されど余が生みし作に変わりなきものなり。それ故亦愛すべきものなり。
茲に昨年度の拙作を列挙し新年の御挨拶に返させて頂きたく存候。

昔日積りし自部屋にて 武蔵山水 識


是非、ご支援のほどよろしく👍良い記事書きます。