見出し画像

エレファントカシマシの歴史 Vol.22 『あの輝く大空の下、俺たちは歩いている』

バリエーション豊かな楽曲が収録されている前作『MASTARPIECE』は下記のリンクから。是非、ご覧下さい。

前作のアルバム『MASTARPEICE』をリリースしたエレファントカシマシはその後デビュー25周年ライブをという華々しい祝祭を実施した。世間からそしてファンから見てもようやく長い道のりを経てエレファントカシマシという生きる伝説的バンドが正当に評価されている時である。そう思っていた。それはもしかしたエレファメンバー全員もおんなじ事を思っていたかもしれない。しかし暗闇は静かに近づいていた。ボーカル宮本浩次が突如、耳の病気を患ってしまったのである。もしかしたら耳が一生聞こえなくなるかもしれない。更には、手術の際喉に通す管によって二度の元の声には戻れず歌手人生を断念せざるを得なくなるかもしれない。宮本、そしてエレカシにとって重要な耳と声を一緒に失ってしまうかもしれない、という危機に瀕していた。そして時を同じくして宮本の母親が亡くなった。正確な情報は発表されていないのでなんとも言えないが宮本はそして家族は大変深く傷ついたであろう。宮本浩次という類稀なる才能を持ち合わせる男を育て上げた母親というのは大いなる器と大いなる優しさを兼ね備えたこれまた類稀なる女性であり母親であったのだろう。そして宮本は過去に経験したことのない大きな暗闇の中に沈むことになる。宮本はさぞ絶望し虚無感に陥ったであろう。しかしエレファントカシマシはそんな絶望から這い上がったのである。病を打ちのめし深い悲しみを振り払ったのである。そうして出来たアルバムが過ぎ去りし過去、そして何よりも愛した母への鎮魂歌であった。題して『RAINBOW』。大空に架かる希望の架け橋である。アルバムは2015年11月18日発売。シングルは4枚、2012年10月31日『ズレてる方がいい/涙を流す男』2013年11月20日『あなたへ/はてさてこの俺は/この円環のなかを』2014年6月11日『Destiny/明日を行け』2015年9月23日『愛すべき今日/TEKUYAKUMAYAKON/めんどくせい』発売。

画像1

1.3210

わずか51秒のインスト曲。遠くから楽器隊が近づいてきてファンファーレがなる。まるで三年半ぶりのアルバムをリリースしたエレカシの新たな開幕をリスナーに告げる様である。題名の3210の日、つまり3月21日がエレファントカシマシのデビュー日である。

2.RAINBOW

前曲が唐突に終わり宮本のブレスからハイスピードのパンクロックが始まる。まるで新人バンドの様なメロディであるがその歌詞は成功と挫折を人一倍味わってきたエレカシにしか書けない詩である。過去のヒーローがどんどん辺りの街、風、そして光に追い抜かされどんどん老いていく。というなんとも現実味あふれる曲である。この曲の主人公は宮本自身である。決して止まらぬことなかった宮本が果たして今まで進んできた道は正しかったのだろうかと振り返る歌詞である。しかしそれでも行かなきゃならないのが宮本及びエレカシである。あらゆる全てを抱きしめて駆け抜けてヒーロー。それが宮本、それがエレカシである。「それが俺さ、嘘じゃないさ」という終曲部分に歌われる詩がなんとも切なくて涙が出る。

3.ズレてる方がいい

ストリングスが全面に入り豪華絢爛な曲である。戦い破れ去っていった過去の人々を歌い上げ現在の我々に勇気を与えてくれる曲である。現在と過去の融合、は宮本の得意技である。

4.愛すべき今日

宮本が少年から大人になるまでを回想した曲。どんな時でも歩みを止めなかったエレカシの歌である。「無様な日々にキッスを」というロマンチックな歌詞でありながらも現実を突きつける宮本の箴言である。Cメロの「悲しそうな顔しないでくれよ 悩む俺の心を映し出す鏡の様だね」という歌詞とメロディと展開そしてリズム。全てが完璧である。

5.昨日よ

一変してダウナーな曲である。宮本が終始ファルセットで歌っている。とても美しい声である。歌詞が心に染み入るまでずいぶん時間がかかった曲であるが今までのエレカシにはないタイプの曲である。

6.TEKUMAKUMAYAKON

一変してミドルテンポのロック。多重録音された宮本の高い声が響く。今までにない音色である。

7.なからん

前曲とは違いマイナーコードの曲。終始宮本はファルセットを用いている。この曲は宮本が入院中にベッドの布団の中で製作したいたそう。過去を思い絶望の真っ只中にいる宮本の直截な心情を感じる事ができる。

8.シナリオどおり

ストレートなロックサウンド。宮本のいろいろなタイプの歌声を聴くことが出来る。

9.永遠の旅人

明るくポップなロック。そしてエレカシ旅人シリーズ。「流れてゆく時の間に自分の足跡を残せたかい」という歌詞が良い。

10.あなたへ

亡き母への歌。まるで一人の人間の人生を辿る様な壮大な歌。既存のラブソングなんかではなくてもっともっと大きな人間の根本的な愛を歌った曲。運命と愛とそして一人の人生。本当に宮本の母は宮本を愛し、宮本は母を愛しているのだなと感じる曲。

11.Destiny

ドラマの主題歌に抜擢された曲。ポップでそれでいて宮本の苦悩や絶望。そして少しづつ見えてくる希望の光が巧みに表現されている一曲である。その先の光へ行こう。

12.Under the sky

『永遠の旅人』のアレンジであるが宮本の歌い方によってガラッと感傷的なバラードに変わっているのがすごい。霧の向こうから少しづつ新しい世界が見えてくる様な雰囲気である。

13.雨の日も風の日も

本アルバムの最後の曲。そして一番初めの『3210』の続きの曲である。まるでプログレッシブロックの様である。映画のエンドクレジットが流れるが如くエレカシメンバーが大空にかけられて虹の下を遠くへ遠くへと歩みゆく情景が浮かんでくる。

シークレットトラック.歩いてゆく

初回限定版にのみ収録されているシークレットトラック。弾き語りの曲である。これがまた渋く良い。宮本故郷である武蔵野台地を歩くというごく簡単な二様であるのにもかかわらず大きなストーリが広がっている。聴くもの全ての日常に還元される様な曲である。

かくしてアルバム『RAINBOW』は終わる。どの曲も色鮮やかで眩い光を放っている。特に表題曲の『RAINBOW』は宮本の溢れんばかりの気持ちが歌詞に現れている。ぜひ歌詞をよく咀嚼しながら聴いて欲しい。

さて次回は現時点(2020年6月2日)でエレファントカシマシの最新アルバム『Wake up』です。ぜひご覧下さい。

この記事が参加している募集

私のイチオシ

是非、ご支援のほどよろしく👍良い記事書きます。