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散文文庫

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#短編小説

思い出されるのはいつも、何でもない日常で

僕たちはしばしば、お互いの耳を掃除する。彼女の耳には、その愛らしさからは想像もつかないものがある。あ、なんかそこ、気持ちいい…、と彼女は呟く。

僕たちはしばしば、帰路を共にする。電車の中では特に話したりしないが、人で混めば寄り添いあい、ニコリと笑う。

僕たちの夜ごはんは賑やかだ。彼女は1日あったことを事細かに話し、時に僕の話を聞く。くだらないバラエティ番組で、互い違いのツボで笑う。並んだごはん

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非表示ハイウェイ

あー、もう腹が立つ!今日も、ねちねちと長い部長の叱責で残業だった。部下のミスは上司の責任、わかっちゃいるが、理不尽だ!いつものことだが、こう毎日続くとさすがに辛い。きっと、ここ最近の業績不振で、部長もだいぶ詰められているのだろうが。

思わず漏れる大きなため息。こんな日は、テレビを見る気にもならない。

通勤に使用している全自動車は、その名の通り、自動で目的地まで連れて行ってくれる優れものだ。しか

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苦しいセカイ

苦しいセカイ

苦しい、苦しい、苦しい。息苦しい。
このところ、毎日苦しくて仕方がない。周りの友は、今日もスイスイと軽やかなのに、どうも体が重くて、同じようには動けない。黙っていても、深呼吸しても、とても苦しい。
 周りは笑顔で、スムーズで…。どうして僕だけ、ずっしり重くて、苦しくて…。

「やあピスタ。今日もひねくれているのかい?」
「うまく泳げないなんて、おかしいやつ!」
「お前の足、ニセモノだろう!形も色も

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