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三浦半島釣り魚図鑑(37) キヌバリ

海の近くに住んでいるけれど、その割に海水浴に行くことは少なくて、たいてい夏の間に1回ほど行くくらい。夏の海は人が多くて、海の家があるせいでビーチも狭い。いつでも行けるというのもあるし、塩や砂でべとべとになるくらいなら、とプールに行くことのほうが圧倒的に多い、というのは海の近くに住む人あるあるなのではと思うのだけれどどうだろう。

でも、そんな私でも楽しめる海水浴があることに気がついた。子どもたちに付き添って行った近くの磯のある浜辺で、ライフジャケットを着てシュノーケルをしてみたら、いつも釣っているような魚をたくさん見ることができて大満足だったのだ。

というのも、いつも私がスケッチしている魚は釣り上げたものなので、もう死にかけていたり、死んでしまっている。描いているうちに、苦しそうに動いたりしている魚を見ていると罪悪感があった。水の中で泳いでいる時には美しかったはずの色もどんどん変化していって、目の色もいわゆる死んだ魚の目になり、申し訳なく残念な気がしていた。

ところが、シュノーケルで覗いた海の中には生き生きと泳いでいる魚がいて、これが本当に美しい。別に、沖縄の珊瑚礁ではなくても、相模湾の岩場を泳いでいるだけで十分美しいということを改めて思い知った。魚のことを調べて食べて、いろいろ知った気になっていたけれども、私は魚のほんの一面しか知らなかったことに改めて気づかされた。

もちろんこの日は釣りもした。早朝、まだ潮が引いている時間には磯で釣り。潮が満ちて来たら少し深くなって来た浜で泳ぐという子どもたちの計画どおり、初めは釣りからスタート。

少し満ちてきたかな、とシュノーケルとライフジャケットをつけて海の中を覗くと、すぐそこには大きなクロダイも、タカノハダイも、数匹固まって泳ぐ大きなボラもいた。岸からも見えたターコイズブルーの美しい魚の群れはイワシ。水がきれいだと魚もきれいに見えるのだろうか。今までもイワシは見たけれど、こんなに鮮やかな色はしていなかったのに。

他にも、イシモチかクロサギらしき、虹色に輝いていた魚。カワハギの仲間らしき小魚。縞模様ののオヤビッチャやイサキ、カゴカキダイは数匹がまとまって泳いでいるのがかわいい。数センチほどの小さくて面白い形の魚はサヨリの稚魚だろうか。

やっぱり生きている魚は一言で言い表せない色をしていて、どんなに地味でも部分的に美しいカラーの部分があるから不思議。それが生きている美しさなんだろう。

潜るのに飽きるとまた釣りをする。この日、ベラはよく釣れて、ササノハベラもキュウセンも大きめのが釣れたけれど、そんな中、小さくてかわいいキヌバリが数匹釣れた。

キヌバリは漢字で書くと絹張で、縞模様が絹を洗い張りするときの、伸子(しんし)に似ているからだと書かれていた。伸子なら、染物をやっていた母が持っていたので知っている。もっと細長いものだから、ちょっと雰囲気が違う気もする。どちらかというと、背びれにある細い尖った部分が絹針のように見えるから、という理由のような気がするけれども、まあこういう名前の由来は諸説あるので。

縞模様は目玉にも通じていて、前から見るとなかなかひょうきんな顔。唇はピンク色で、なんだかピエロやオバQを連想した。

キヌバリはハゼの仲間。模様は特徴的だけれど、味はハゼとほぼ一緒。この日釣れたベラと一緒に塩焼きにして食べると淡白でクセのない味でおいしかった。

あんなにたくさんの魚がいる磯なのに、この日釣れたのはベラとキヌバリのみ。やっぱりエサやしかけなど釣れるためにはまだまだすべきことがあるんだろう。でも、普段ベラしか釣れないと思っている釣り場にもきっと、大きな魚もいるのだな、ということがわかって安心する。あとは腕次第だ。

海水浴場はたいてい、波の侵食を受けて砂浜が小さくなってきてしまうことが多く、あるいは、川の近くでは堆積した砂が沖まで洲をつくり、均等な形にならないことから、毎年のように海水浴場がオープンする前に重機で砂を運び、ならして人工的に整備されている。漁港も防波堤も、人が使い勝手が良いように人工的につくられたものだ。私が覗いた海の底だって、近くには防波堤もあり、もともとの自然とは大きく違うのだろう。

それでも、里山が多様ないきものを生み出しているのと同じように、人が管理している里海とでもいうのだろうか、手の届く海に多様な環境を残していけるような整備のしかたをすることで、人にも魚やほかの生き物にとっても幸せな海が身近にあるような方向に未来があったらいいなと、今いるたくさんの魚がこれからもずっとたくさんいてくれたらいいなと、海の中を覗くことで自然にそういう思いが今まで以上に湧き上がった。また、魚を見に行こう。

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