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絵地図に残したいまち

絵地図が好きです。
アカウント名の「さんぽ絵ずし」は、歩いた道すじを絵にしていく図師という意味と、住んでいる場所、逗子をかけたもの。
ここ10年ほど、好きな絵地図を自分でも描くようになりました。

昔から、住んでいる町でも訪れた先でも、風景として美しいか、好きかどうかという見方をしてしまうことが多いのですが、そんな中で、自分がたまたま住んだ町がたいそう気に入ってしまい、私がいいな、と思った道や場所を近くの人たちにも伝えたいなと思うようになりました。

思い起こせば小さい頃から絵を描くことだけではなく地図が好きでした。地図を眺めては旅する場所を決め、旅先では観光案内所で地図を集めて、行った先や通った
場所にマークをしたりするのが何故か好き。

観光地でもない自分の町には細かい道までのっている地図はなく、とりあえず覚え書きのように細い道や、お気に入りの場所などを描いていたのがだんだんと絵地図の形になってきて、そうだ、絵地図つくろう!ということになったのです。

実際に作ってみると、私自身、作ることで見えてきた発見がありました。伝えようとすることでより深く町を見るようになったということかもしれません。​

例えば歴史。その場所がそんなふうに形作られてきたのには、その場所の地形が作用していることはもちろん、長い歴史の中でその時々の人々がいいと思う選択を続けてきた結果なのだということが見えてきます。
例えば法律。前の方がよかったのに、どうしてこんなふうになってしまったんだろうという場所には、そうならざるを得なかった規則があった結果だということがわかったり。

作った絵地図をSNSにあげたり、実際に印刷してみると、絵地図をきっかけその場所を歩いて新しい発見があったという話や、行くことができなくてもさんぽの雰囲気を味わってもらえたという話を聞き、すっかり絵地図づくりにはまってしまいました。

絵地図を描こうと思ったのは10年ほど前ですが、下の写真はそれよりもだいぶ前、環境デザインを学ぶ学生だった頃に描いた絵地図のような落書き。
私が子どもの頃の自分の家のまわりの風景を思い出して、その頃の思い出と共に描いた、いわば私がはじめて出会った世界の絵地図です。

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私がはじめて出会った世界の絵地図

家は新興住宅地がいくつもあるようなベッドタウンのはずれ、市街化調整区域のキワ、袋小路のどんづまりにあり、家のまわりは赤松と雑木林が生えていて、袋小路の奥にはススキの原っぱ。春にワラビとゼンマイ、秋にはハツタケとムカゴを食べる野のかたわらにある暮らし。林の中にはいくつもの秘密基地があって、子どもたちだけの世界が広がっていました。通りがかりの人から見たらありふれた景色にすぎなかったと思いますが、その中で育っていくことで、数々の思い出と共にその環境が私だけのかけがえのないものになっていました。

多分、同じ時期に同じ場所にいた、例えば私の両親に地図を描いてもらったとしても、きっとその地図は私の地図とは全く違うものになっていたはずで、そういう意味で大げさに言えば絵地図は、その人の世界を表すものなんじゃないかとすら言えると思うのです。

で、何が言いたいかというと、多くの人が自分だけの絵地図を(実際に描くかどうかは別にしても)どれだけ濃い密度で描けるかどうかが、よい風景やよい町の尺度になるのではないかということ。まちづくり、というと何か作らなくてはいけないような、新しいことをしなければいけないというようなことを考える人が多いと思うのだけれど、ほんとうに大事なのは、身近な環境で自分が居心地の良い場所や面白いと思えるものや人を探すこと。ハードであれソフトであれ、好きな居場所が見つかれば、それを守っていく努力をすること。好きな場所がなければ今いる場所を居心地よくしていくこと。町に住んでいるそれぞれの人がそんな小さな積み重ねをしていくことで、町はきっと面白い場所になると思うのです。

そして、絵地図づくりこそ、そんなまちや場所の魅力を多くの人に伝える最高の手段だと思っています。

少なくとも今までその場所に住んできた人々がいた場所がまちであって、海上に新しい埋立地を作るような場合でない限り、土地のゆかりや地形が生かされてきた歴史があって今のまちがあります。古いものを必ずしも残す必要はないと思うけれど、古くから残ってきて今そこにあるものには、一見不要に思えるものにもきっとそれがそこに必要だというなにかや、そうならねばならなかった理由があるに違いなく、一から新しいものを生み出すことよりも、どちらかといえば、古くから残されている中にあるよいものを見つけ出し、選択して残していくことがこれからのまちづくりに必要なのではないかな。

わたしが暮らしたい未来のまちは、住んでいるみんなそれぞれが楽しい絵地図を描けるような、今いるひとだけでなく、その地に代々住んできた人々の思いや居心地の良い場所が詰まったまち。

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