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さんぽ絵日記 みかん投げ

正月2日、毎年行われていたみかん投げがなくなって4年目。ふたたびこの日が来るのを本当に願っていたけれど、私なんかよりも漁師さんたちのほうが待ち望んでいたに違いない。

航海の安全と大漁を願って行われるみかん投げは、逗子市小坪で古くから続いている行事だ。同じような習慣は鎌倉や房総でも行われているらしい。

なぜみかんなのかはよくわからない。黄色い色がお金みたいだから、とかこじつけのようないわれはあるけれど、一番の理由は多分、ちょうどその頃みかんがたくさん採れるからに違いない。大漁旗を掲げた船から、漁師さんたちがみかんを投げて、それをみんなでキャッチするというシンプルな習わし。

4年前はこの日を指折り数えて待っていたうちの子。毎年今年こそは、とみかん投げの開催を楽しみにしていたので、やっと開催されるというニュースを聞いてさぞや喜ぶかと思っていたら、意外にも、「ふーん、行ってもいいよ」くらいのノリになっていて、この4年でずいぶん大人になってしまっていたことを思い知る。

私はといえば、毎年、みかん投げはなくても大漁旗を掲げる船を見るためだけに漁港を歩いていたりしていたくらいだから、当然、待ってましたの気分で参加する気満々。他の人もきっとそうに違いない、と当然開始時刻より少し早めに着くように漁港に行くも、あれ、コロナ以前に比べるとなんだかそこまでの人出はない。あまり人が集まりすぎても困るから、告知を控えめにしていたのかもしれない。

漁協前から始まって、各船のみかんが投げられていく順番も頭に入っているけれど、あえて人の多い漁協前には並ばず、海の上に浮かんだ船からみかんが投げられるので絵になる船着場あたりでみかんが投げられるのを待っていた。

はためく大漁旗の色とりどりな色。冬でもあたたかい地方ならではのエメラルドグリーンをおびた海の色と澄んだ正月の空の色に映える黄金色のみかんが空を舞う。船の上にも、集まった人の中にも知り合いの顔が見えて、新年のあいさつなど交わす、いつもの正月の風景に胸がいっぱいになる。今年は正月早々辛いニュースがあったので、なんとなく、こんな平和な風景が帰ってきたことにも素直に喜んでいいのかの戸惑いもある。でも、ここも、どこでも、いつ災害が起きるかわからない場なのだ。できることをできる時に楽しむべきだという思いもよぎる。

私の場合、ほとんどのみかんは一度地面に落ちてしまったものを拾い上げたものなのだけれど、今年は直接キャッチできたのもあって、とりわけうれしい。わざわざ投げてくれたわけではないと思うけれど、知り合いの子どもが投げたみかんだった。今年は幸先よいと信じたい。

いくつかの船をまわって、そこそこのみかんやお菓子を手に入れて帰路につく。みかん投げで手に入れた福みかんはなるべく多くの人に分け合った方がいいとされているようなので、出遅れて取れなかった人や、体が痛くて行くのはやめておくと言っていた人たちみんなにもお裾分け。大漁と航海の安全、みんなの健康を祈ってちょっとつぶれたみかんを食べる。平穏無事な一年でありますように。

小坪漁港の船着き場

※補足
昔は2日のみかん投げのあと、3日に竜宮まつりが続き、何艘かの船を組んで作った台船に真祝 まいわい という晴れ着を着た漁師さんと神主さんが乗り込んで、小坪を囲む大崎にある竜宮社と飯島にある白髭社、浪切不動をめぐったというが、逗子マリーナの埋め立てと漁港建設に伴う海岸線の変化で竜宮まつりはなくなった。今では竜宮社の場所も変わり、漁協の脇に祀られている。

参考:「鷺の浦風土記」石井清司


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