もうすぐ仕事辞めます⑦よくあるあるな話

私は朝のんびりと起き出して洗濯機を回し、洗濯物を干そうとしたが、外は強い風が吹いていたので室内干しにした。
会社で退職の手続きに行こうとしていたのだが、前日までずっと穏やかな天気だったので今日に限ってか、と思った。
だが雨の日も風の日も仕事に出掛けていたのでは無かったか?掃除に連日没頭しているうちに私の中がゆっくり変化してきていたのかも知れない。
私は厚手のコートの中にウールのセーターを着込んで外へ出た。

時々会社まで電車に乗らず時間を掛けて歩いていた。特に春先などに。
仲間は少し驚いて、どうして?健康の為?と訊いたりしてきた。私は散歩がとても好きだ。春には通り抜ける住宅街で丹精込めた薔薇が咲く庭が美しかったりするのだ。
猫が毛繕いしていたり、番犬がすっ飛んで来てワンワン吠えたりするのも楽しい。
往きは返却する制服やら菓子折りやらを持っていたので徒歩ではなかった。帰りはのんびり歩こうと思っていた。風はずっと強かったが。

見慣れたエレベーターの階数ボタンを押した。入口から入ると見慣れた部屋に見慣れた事務の方がいた。いつもテキパキ仕事をしていて余計なお喋りをしない人だ。だが私は彼女を優しい人だと思う。気配りがある。多くの人は喋り過ぎてしまう。そして問題を作りがちだ。
私が辞めるのを知らない人もいて驚いていたが手続きは完了した。
「大変お世話になりました。皆様どうぞ健康には気を付けてこれからもお元気でいてくださいね。」いやぁ~、こちらこそありがとうございましたと云う皆の声が応えた。何時でもまた戻ってくれて構いませんよと笑っていた。(本当にありがとう)

帰り道は前の夜に突然頭に浮かんだあの道から帰ろうと思った。桜を観る為だけにここへ来る事も無いだろうなと緩やかな坂を下って行った。私の中で何かが(どうしてもう来ないの?)と訊いている。(じゃあまた桜を観たいだけで続ける訳?)と私はそれに言った。(う~ん、ちょっとそれはなぁ)···。

冬の北風が吹く公園のベンチに暫く腰かけて辺りを見回した。まだまだ遠い桜の季節。見事な花をここで私は観ないと思う。
雲は吹き払われ完璧な青空が眩しかった。
散歩する理由と場所が一つ消えた。

私は立ち上がり歩きだした。不思議と寒さを余り感じなかったが空腹だと気付いた。そして小さなパン屋に立ち寄り、魚フライのサンドイッチとクリームサンドを買って帰った。

そして家でふと思って会社のサイトにアクセスしてみたが、既にアクセス権は無くなっているようだった。業務にもう就かないからだ。

私が消えていくなぁ、と感じた。
ちょっと透明な感じがする。
違うものがこれからどんどん入ってくるのだろうか?
私は透明なガラスの瓶みたいだ。


また続きます( ´∀`)

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