見出し画像

脳出血の隠れた後遺症〜てんかん発作の条件と予兆〜|『壊れた脳も学習する』を読んで

脳出血の後遺症には運動・感覚麻痺以外にもさまざまな症状が存在します。そのひとつが「症候性てんかん」です。

この記事では脳出血当事者がてんかん発作予防に必要な病識について、山田規畝子さんの『壊れた脳も学習する』(2011,角川ソフィア文庫)を参考にまとめます。

脳出血当事者はもちろん、当事者のご家族や友人・恋人など支援者の参考になれば幸いです。

症候性てんかんとは?~重積てんかんの経験談を交えて~

てんかんinfo公式HPの図を参考にすると、脳出血が誘発するてんかんは「症候性部分てんかん」に当たります。

この症候性部分てんかんを抑制するために、脳出血発症者が服用する薬が抗てんかん薬です。

2018年に脳出血を患った私も約3年間、基本的には抗てんかん薬(イーケプラ500mg)を朝晩に1錠ずつ服用しています。

画像1

抗てんかん薬を服用している私ですが、2020年の冬に軽い発作を経験し、2020年8月19日には「重積てんかん(てんかん重積状態)」で自発呼吸が止まりかけ、人工呼吸器を挿管された状態でICUに3日入院しました。

公益社団法人日本てんかん協会の公式HPによれば抗てんかん薬を服用しない場合の症候性部分てんかんの抑制率は35%で、抑制率は決して高くないことが分かります(出典「厚生省・難治てんかんの病態と治療に関する研究班による多施設共同研究」)。

画像2

抑制率が低い事実がありながら、てんかんを予防する方法・てんかんの予兆について危機感をもって生活される脳出血当事者さんは少ないように感じられます。

私の場合は急性期(手術含む)から都内の大学病院に通院していますが、担当医から教えていただいたてんかん予防のポイントは次の3つです。

=====================

①7時間以上の睡眠を摂る

②脱水しないよう、こまめに水分補給をする(室外・室内ともに)

③ストレス(筋緊張が起こる状態)を避ける

=====================

てんかん予防の基礎はこの3点で十分なのですが、働き盛りの若年層(20~40代)はてんかんの仕組みを理解、応用しながらてんかんを予防する必要があると私は考えています。

先ほど挙げたてんかん予防の基礎ポイント3つの中でも「睡眠」「ストレス」は社会人にとって課題になりやすいポイントだからです。

就業形態・役職は問わず、仕事上で目標数字が課せられる場合が多いですし、避けては通れないストレス(対人関係や顧客折衝)があります。

つまり、働き盛りの若年層は環境要因によって無理をする可能性が高い故に、発作の仕組みや発作による身体影響を知らずにいれば、てんかんを予防し切れないのではないか、と考えています。

この仮説を裏付けるために、次の章で私がてんかん発作を起こした当時の流れと『壊れた脳も学習する』に書かれた内容を交えながら、「てんかんの条件と予防」についてまとめます。

てんかんが起きやすくなる7+1つの条件

本著によれば、山田規畝子さんはてんかんが起きやすい条件を次のように述べています。

脳が興奮しやすい場面(交感神経が優位の状態)

交感神経が優位の状態の具体例として挙げられていたのは次の7例です。

=====================

①満腹または空腹状態

②歩きすぎ(過度な筋肉運動)

③極度な寒暖(入浴や寒すぎるor暑すぎる部屋で過ごす)

④寝不足

⑤苛立ち(精神的なストレス)

⑥カフェインの摂り過ぎ

⑦脳出血が起きた側の脳機能を使う行為

⑧感染症(風邪やインフルエンザ)

=====================

④⑤は前章でご紹介した基礎に当たりますが、それ以外の具体例はてんかん発作のメカニズム(電気信号の過剰放電)を知っていれば気が付けそうなポイントです。

私は先述した入院を要するてんかん発作とは別に、2度の軽い発作(吐き気と顔面けいれん)を起こしています。この発作の原因は山田さんが挙げられた例に当てはめるなら、②・④~⑦です。

時には目標達成意欲の強まりから、日常的にカフェインを接種して(350ml×3は飲んでいたと思います)、毎日21時頃まで仕事をしていました。次の図は脳出血発症以降の発作の経緯です。

画像3

この頃の私を表すように、山田さんは本著で次のとおり述べています。

「脳に傷がついて鬱的になると、逆にワーカーホリックになる人は少なくない。そんな時、誰か身近な人、または尊敬する人に『もう休みなさい』と言ってもらえると良いのですが」(p.212)

私の場合は軽いけいれん発作を起こした時、都外に住む両親が大変心配してくれましたが、そのまま一人暮らしの日常に戻ることを選びました。

自分のキャリアを大事にしたかった熱意と「将来もし家庭を築く段階になって、生活力がない状態だったら困るのでは」という女性の社会的立場を考えると、両親の世話になる選択は最善だと思えなかったのです。

てんかんの予兆とは?予兆を感じたらするべきこと

先ほどお伝えした7+1つの条件を回避して、てんかん発作を予防するのが最善策ですが、万が一発作が起きてしまった時は「発作の予兆」に気付けたか否かが脳へのダメージ量を左右します。

ご自身も複数回けいれん発作を経験されている山田さんは本著でてんかんの予兆について以下のように述べています。

「発作の条件や予兆を理解して自分の主治医になることが大切」

私も山田さんと同じように、発作の条件や予兆を理解し、可能な限り発作を回避できる環境を整えることの重要性をお伝えしたいと思います。

■発作の予兆~私の場合~

先述した「けいれん発作の経緯」の中で赤字表記した1回目と4回目のけいれんは入院を要する規模の発作であり、特に4回目は重積状態に陥り、自発呼吸が止まってしまいました。

コロナウィルスの流行により、ニュースで耳にする頻度が増えた「人工呼吸器」を挿管しましたが、喉に太い管が通っているため生きた心地はまったくしない状態の中、ICUで3日間過ごしました。

これでも脳にダメージを負ったことに変わりはないのですが、1回目の経験があったため、予兆を感じてすぐに周囲に助けを求めたからこそ、命が助かったのだと考えています。

4回目の重積てんかん発作の予兆は次のとおりです(発生の順で記載)。

================================

①意識・認知のまとまりがなくなる(ソワソワする感じ)

②左指の感覚が鈍麻し、痺れを感じる

③顔の左側が細かくけいれんする(同時に感覚鈍麻)

④左眼が意識せずに左上へ動き、意識消失

================================

山田さんはご自身の予兆について本著で「舌先の感覚などが鈍り始め、発作が起きる」と述べられています。私の場合、重積てんかん時にはその他の症状が大きかったと記憶しています。

発作①~③の比較的小さな発作では舌先の感覚の鈍り、舌が意識せずに動く予兆を感じました。

■予兆を感じたらするべきこと

私の経験からお話しすると、予兆を感じてから数分~30分以内に発作は起こる傾向にあります

短い時間の中ですが、自身の既往歴を周囲に伝え、救急車を迅速に手配するためにすべきことは次のとおりです。当事者のタスクと支援者のタスクに分けて記載します。

================================

(1)当事者のタスク

①広く、周囲に物がない場所で横臥する(意識が消失し、転倒の恐れがあるため)

②既往歴やかかりつけ病院を記載したカードなどを取り出す(私は既往歴などを記載した携帯の待ち受け画像と、AppleWatchのメディカルIDを表示させます)

③周囲に救急車を要請してもらい、②を渡す

〔当事者のタスクにおけるポイント〕

脳に刺激を与えないよう、なるべく周囲に助けてもらいましょう。また、救急隊員から搬送先を聞かれた場合はかかりつけ病院ではなく、近隣の受け入れ病院を希望します。

(2)支援者のタスク

①当事者から受け取った情報をもとに速やかに救急車を要請

②声がけなど、当事者に刺激を与える行為はせず、けいれん発作が始まった時間・けいれんの状態を記録する

②当事者が横臥している周囲に物がある場合は撤去する(当事者が横向きになっていない場合は当事者の顔を横向きに調整)

③当事者の緊急連絡先が分かれば、各所へ連絡する

〔支援者のタスクにおけるポイント〕

速やかな救急搬送をするために、まずは救急車を要請してください。また、発作時の二次障がいを防ぐために、周囲の安全を確保してください。

================================

抗てんかん薬の効用と副作用

最後に補足として、てんかん発作を防ぐ、抗てんかん薬の効用と副作用についてお話しします。

■抗てんかん薬の効用

抗てんかん薬にはさまざまな種類がありますが、基本的には脳の電気信号の過剰放電を防ぐ薬です。各てんかん薬の特徴はてんかん情報センター公式HPなどを参考にすると良いと思います。

「予兆を感じたら、抗てんかん薬を服用すれば多少恢復するのでは?」と担当医に質問したところ、予兆を感じた時に服用してもてんかん発作を防げない場合がほとんどのようです。

因みに、私が服用しているイーケプラは「吸収は早いものの、血中濃度が最大になるのは服用から1時間後で、発作は抑えきれない」そうです。

また、当事者が抗てんかん薬の効用を理解する上で知っておきたいのが「血中濃度」です。

例えば、きちんと用法容量を守って抗てんかん薬を服用していても、血中濃度が下がりやすい環境では、てんかんを抑えられる閾値も下がることを表します。

本著を参考に、血中濃度が下がりやすい環境についてまとめると次のようになります。

〔抗てんかん薬の血中濃度が下がりやすい環境〕

・運動や暑いときなど、代謝の良いとき

■抗てんかん薬の副作用

一般的な抗てんかん薬の副作用は「気分の落ち込み」「眠気」です。これに付随して「思考のまとまりにくさ」を感じることもあるため、復職時には適量を服用しなくては仕事に支障が出る可能性が高まります。

※蛇足ですが、重積てんかん後は一時的にイーケプラの副薬量が倍になるため、思考のまとまりにくさや眠気の副作用が辛かったです

てんかん発作を発症した方が利用できる制度

私のように症候性てんかんを起こした経験がある方や、現在抗てんかん薬を服用されている方は支援制度を利用して、経済負担を減らすことが可能です。

公益社団法人日本てんかん協会の公式サイトに「使える制度」として次の3つが記載されています。

・自立支援医療:外来診察や薬代が3割負担から1割負担になる制度

・障がい者保健福祉手帳:障がい者雇用枠の就労支援や税金控除を受けられる制度

・障がい者年金制度:てんかんの症状や頻度によって年金が支給される制度

私はとある方がTwitterで「てんかん患者の自立支援医療制度」について投稿してくださったおかげでこれらの制度について知ることができました。次回の診察で主治医にこれらの制度について質問したいと考えています。

最後に

今回は脳出血の後遺症のひとつ「てんかん発作」について、山田規畝子さんの『壊れた脳も学習する』と自身の体験をもとにてんかん発作の条件・予兆・対応についてお話ししました。

オオサワのnoteでは脳出血当事者や、支援者が少しでも安心して毎日を過ごせるよう、引き続き記事を公開してまいります。

ご質問などがございましたら、ぜひコメントをお寄せください。

みなさんのコメント・フォローをお待ちしています。


この記事が参加している募集

最近の学び

脳出血当事者・支援者に向けて、社会復帰の課題と改善策を発信しています。サポートいただけると励みになります…!共に生きましょう。