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小学校で貨幣制度が崩壊した話

こんにちは。
実家が全焼したサノと申します。

僕の通っていた小学校では、
毎年冬になるとマラソン大会がありました。

小学生の頃は足が速いとモテるので、
特に男子は一生懸命取り組んでいました。

しかし当然ながら競争なので、
走るのが得意な人もいれば、
不得意な人もいます。

同級生のぽっちゃり体型の
クボ君は、毎年ビリでした。

ビリだからと言って
差別されることはありませんが、
本人からするとやはり
気持ちのいいものではありません。

ある年のマラソン大会、
クボ君は壊れてしまいました。

例年通りクボ君は断トツのビリでした。
もう他の生徒はゴールしているので、
ゴール地点で遊んでいたのですが、
それに対し先生は怒りながら

「クボ君がまだ走ってるやろ!応援しろ!」

と言いました。
クボ君に目を向けると、クボ君は涙目で
脇腹を手でおさえながら、歩いていました。
クボ君は完全に戦意を喪失していました。

先生はそんなクボ君を見ながら

「クボ君、がんばれー!」

と大声で応援しました。
僕たちもそれに続いて、

「クボ君、がんばれー!」

と声をかけ続けました。
クボ君はそれに応えるように、
何かボソボソと話していましたが
聞き取れませんでした。

そして、ようやくクボ君が
ゴール目前に迫ったとき、
クボ君は先生と僕たちに向かって
思い切り叫びました。

「頑張れ頑張れうっさいわ!!!
もう頑張っとんじゃーーー!!!!!」

一瞬にして場は静かになりました。
クボ君の目は明らかに
闇落ちした人間の目でした。

確かに、毎年ビリになるのが確定している
イベントなんて楽しいわけがありません。

先生も気まずくなったのか、

「そう、クボ君は頑張った!お疲れ様!」

と声をかけ、早々にマラソン大会は
切り上げられました。

なんとも後味の悪いマラソン大会でしたが、
その後は通常の授業に戻り、
クボ君もきちんと授業を受けていました。

しかしこの事件を機に、
クボ君も、クラスも、
大きく変わってしまいました。

ある日、学校に行くと、
何やらクラス中が盛り上がっていました。

みんな、ピカピカの
謎のカードを持っていました。

カードをよく見ると、
おしゃれなカード型の折り紙でした。

そしてそのカードには、
意味不明なポエムや
ゲーム「ゼルダの伝説」の
キャラクターの名前が書かれていました。

その場にいた同級生の話を聞くと、
どうやらこのカードは
クボ君が作っているとのことでした。

元々、仲良しの友人に
プレゼントとして配っている内に、
みんなが欲しがるようになり、
この盛り上がりになったようです。

クボ君はカードを作って欲しいと
クラスメイトから囲まれていましたが、
まんざらでも無さそうでした。

それもそのはず、
マラソン大会で闇堕ちして以降、
なんとなく気まずい雰囲気があったからです。

しかしこのカードで、
彼は一躍ヒエラルキーの頂点に立ちました。

僕もみんなと同じように、
クボ君にカードを作って欲しいとお願いし、
クボ君は快く引き受けてくれました。

とはいえ、全て手作業のため、
クラス全員のカードを作るのは
かなり大変な作業のように思います。

クボ君は毎日カードを数枚
作って持ってきていましたが、
需要に対して供給が追いつきません。

すると、クボ君から貰うカードを待てずに
すでにカードを持っている人から
「買う」同級生もあらわれました。

この瞬間、クボ君のカードには
貨幣としての価値が生まれました。

そしてクボ君のヒエラルキーは、
ロスチャイルド家と並びました。

クボ君からカードを貰うために、
媚びへつらう者。お金を支払う者。
僕たちのクラスに
突如持ち込まれた資本主義が、
どんどん同級生を変えていきました。

やがてクラス中にカードが行き渡ると、
次は枚数を競い合うようになりました。

元はプレゼントのために作られたカードが、
資本主義の道具と成り果てました。

クボ君と仲良くすれば、
多くカードを貰えるので、
みんなクボ君を褒め称えました。

しかし、そんな日も長くは続きませんでした。

ある日、学校でいつものように
カードを見せ合いっこしていたら、
明らかに1人あたりの
カードの枚数が増えていました。

そしてカードをよく見ると、
明らかにクボ君の作ったものとは
違っていました。

そう、偽札が出回ったのです。

一目で本物と偽物の区別がつく
という点においても、
クボ君のカードは貨幣として
とても優秀だったのですが、
予想以上に偽札が出回っていたことで、
もはや収拾がつかなくなっていました。

カードの価値を「質」から「数」に
シフトしてしまっていた僕たちは、
偽札によって起こされたインフレに
虚しさを覚え、皆カード集めをやめました。

クボ君がその後いくら
「これが本物!僕が作ったやつやから!」
と言っても、誰も欲しがりませんでした。

クボ君はまた、闇堕ちしました。

「悪貨は良貨を駆逐する」という
ことわざがありますが、
まさか現実に起こるとは思いませんでした。

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