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「妖の唄」〜実話に基づくたヒト編 3〜


前回までのお話しは、こちら↓


父が優しい陰の人なら、母は頑張り屋さんで働き者の陽の人だった。
私の耳が聴こえないと分かった時、母は藁にもすがる思いで色々な病院を駆けずり回り、効くと言われれば高価な水を買い、胡散臭い宗教へも幼い私を連れて軒並み顔を出した。もちろん直ぐに騙されたと気付いたそうだが。
先天的な聴覚障害が治らないと分かると今度は私のろう学校へも一緒に通学するようになった。。家の中で母だけが手話をマスターしていたのは、そういう経緯があっての事だった。仕事でも子育てでも常に頑張る人、私は母の事をそう思っている。そして、それは今も変わらない。

そんな母を襲った不思議な感覚は、ずっと母を苦しめ続けた。プライバシーが全くない生活、当時母はストレスからか何度も持病の貧血で倒れ、酷い頭痛に悩まされる日々を送っていた。
そんな折12月の初旬、母を心配した親友夫婦が今年最後の花火大会を見に行こうと温泉旅行へ誘ってくれた。何年も旅行など行った事がなかった母は、その話しに飛びついた。

其処までは盗聴も襲って来ないかもしれない。

父は誘わなかった。当時、父は「痙性斜頸」と言う首の病気を患っていた。何十年も同じ体勢でパンを焼き続けた為に父の首は変形し痛みに苦しんでいた。母はまた私にしてくれたように、父の病気を治すために山梨県や東京の有名医を探しては父を連れて走り回った。それでも父の病気は日増しに酷くなる一方で、この時既に母の言う事は聞かなくなっていた。

「どうせ、何処の病院にかかっても治せないよ」
父は自暴自棄になっていたのかもしれない。

この旅行がそれまで働き詰めだった母の何年ぶりかの息抜き……になるはずだった。ところが一泊二日の旅行を終えて、次の日に母が帰ると家の中は雑然としていた。母の荷物は車庫に放り出され、そのスペースを作るかのように車検を取ったばかりの母の車が車庫から消えていた。階段を上り、住居の二階に着くとシーンと静まり返った居間に父と妹が待っていた。
「ただいま」
そう言った母にどちらからも返事はなかった。代わりに妹が立ち上がり、一枚の紙を母に突き出した。

「これにサインして!」
無表情な冷たい顔で父との離婚届がこたつの上に置かれた。
「早くして、汚らしい!」
普段、無口で殆ど喋らない妹が珍しく感情をあらわに母をののしった。
「どういうこと?」
母は何が始まったのか、狐につままれたようだったと言う。
「証拠はあるんだからね!」
「証拠?何の?」
「お母さん、浮気してたんでしょ。証拠は私が持ってるんだから」
母は父の顔を見つめて救いを求めたらしいが、父からは何の言葉も返って来なかった。

「何もかも知ってるんだから」

(何もかも?私の何を……あっ)

母はこの時、盗聴魔が妹だったと悟った。半年に及ぶ執念のような盗聴…

「お父さんの面倒は誰がみるの?」
「私がみるから出ていってよ!」
「お店は?」
「私がお父さんの跡を継ぐわ!」
「そう…」

母はこの時、何もかもが嫌になったのだと言う。
娘の言う事だけを信じて、高校生の頃から三十年以上付きあった自分の話しを聞こうともしない父、何もかも分かっていると親の携帯を密かに盗聴していた娘。同じ家の中で、どんな顔をして、そんな事を続けて来たのだろう。
母は一言の弁解もしないで離婚届に名前を書いた。
「これで、いいんでしょ」

その場にはもう居たくなかった。
これが一生懸命育てた自分の娘?
何をしたいの?〇〇ちゃん…

「荷物は1週間だけ置いてていいから、後は捨てるぞ」
父が初めて口を開いたそうだ。
その足で母は師走の町に出てタクシーを捕まえた。
「ド◯モショップへ」

ド◯モで母は自分の携帯電話を徹底的に調べてもらった。しかしプロの店員が盗聴アプリの存在を突き止めようとしても、母のスマホには何の異常もなかった。
「おかしいですね~」
1軒目のド◯モショップでは、見つからなかったが、母は諦めずに二軒目のド◯モショップを訪ねた。
状況を説明した後、
「あ、ひょっとして…」
一人の男性店員が自分の考えを話した。

「多分、僕の想像が当たっていると思うんですが…お嬢さんとは家族契約ですよね?初期設定は誰が?」

母と妹はドコモのI-PHONEユーザーだった。
生来の面倒くさがりの母は機種変更をした際に妹に全ての設定を任せていた。
「それが何か?」
「この携帯、お嬢さんの子機のような状態にされている可能性があります」
「えっ?どういう事ですか?」
「つまり……」

店員が言うにはメール、ライン、私が聴くことが出来ない通話、全ての情報を親機になっている妹の携帯が、自動的に見聞き出来る設定に変更されていたと言うのだ。
「そんな事が出来るんですか?」
「僕も実際に見るのは初めてのケースですが、それしか考えられません」
「どうすれば、この状態を直せます?」
「一応、全部消去して初期設定に戻しましょう」
「それで、もう大丈夫なんですか?」
「うーん、分かりません。こんなケースは初めてなので」
「消します!全部、今すぐに」
母は主要な人のアドレスだけをメモ書きして、その場でスマホを初期設定に戻した。


つづく


貴方のスマホ画面に盗聴アプリは、仕掛けられていませんか?
私はこの出来事で現代は簡単に盗聴出来る事を知りました。ご注意くださいね。



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