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「エッセイ」怒っていいと思った…でも

現実の動く私をお見せ出来ないので、実感が沸かないと思うんだけど…
リアな私は殆ど滅多に人に「怒らない」
それは持って生まれた性格だったり育った環境にも寄るものだと思うけど(現在の商売柄もあったりするかな?)

亡くなった主人は私のことを
「四年に一度くらいしか怒らないよね」
ってよく笑った。オリンピックみたいな女らしい(笑)

「怒り」と言う感情は生きていく上で必要だと思うが、一度怒ってしまうと傷つく相手がいる。自分自身も後味が悪い、後悔する。
だから器用に生きる「癖」として、あまり怒らない生き方を選択してきたつもりだ。
怒るならそんな状況にした自分自身に腹を立てた方が次の日の目覚めがずっといい(笑)

そんな私が12年程前、異常に怒った事件がある。
前記事で笑いを取るつもりがスベッて「認知症」の方を侮辱したような気持ちになって思い出した。

思い出すとどうにもこうにも後味が悪い。
これは書いて発散しなきゃと思って、この記事を書いている。まぁ、お時間がある方は私の長い言い訳を聞いて欲しい。

あれは12年程前、病院から遷延性意識障害で植物人間になった主人が危篤に陥ったと電話を受けた日だった。
当時、主人はまだ「胃ろう」の手術を受けていなかった。口から物を摂取出来れば、一番の刺激になるがせめて口に近い「鼻」からチューブで栄養を入れる方を私は選んでいた。それに咽に呼吸を保持するために開けた「穴」がまだ開いていて、主人の身体をこれ以上穴だらけにするのが嫌だったというのもある。

この日、看護師さんのミスで鼻から胃に入れる栄養を全て「肺」に注入してしまった。その為に急性肺炎に陥って危険だとの電話を受け取った。
この事故で私は「胃ろう」を選択する事になるのだが、病院や看護師さんに怒った記憶は全くない。
むしろ失敗して震えながら泣く若い看護師さんを
「大丈夫だよ!この人、体力だけはあるから」
と笑って慰めた。

私が怒った事件というのは、そんな状況下で病院に急いでいた道路で起きた、ある小さな事故のことだ。
結果として主人は二、三日でもち直したが、その時の私は本当に急いでいた。私が到着しなければ色々な処置が出来ない。
その時、私の前をノロノロと走る普通車がいた。その車のせいで狭い田舎道は渋滞していた。
「何やってるの(泣)」
心は焦る。でも一本道で回り道している余裕はない。運転席を見ると助手席を向いて話している。
「オバサン、あるあるだな」
私は本当に急いでいた。

そして一番の難関、急な坂道の上に信号機がある道路に差し掛かった。ノロノロだから信号機は当然赤になり停車した。急な坂道だ。
嫌な予感がした私は前の車との車間距離を充分に取って車を停めた。
「早く早く」
心は焦っていた。その時ズルズルと前の車が坂道を下がり始めた。
「ウ、ウソでしょ!」
向こうは普通車、こちらは義母に借りたオンボロの軽だ。
だんだんスピードを増して下ってくる普通車に私は思い切りクラクションを鳴らした。犬の散歩をする人や近所の人が見るほどのクラクションの音

ビーーーーー!!

あ、もうダメだ!ぶつかる!!
私はブレーキを固く踏みしめサイドブレーキを思い切り引いて目を閉じた。私の車が動けば後続の車に迷惑が掛かる。

ドカンッ!

大きな音を立て私の車のバンパーにぶつかって、やっと普通車は停まった。オバサンが運転席から降りて来た。
私は当然、謝られるのを想像していた。
「急いでるけど事故だから仕方ないか」

ところがオバサン
「あんた!何やってるのよ!ブーブークラクション鳴らした上に車ぶつけて!!」
「はっ?」
呆気に取られた。この坂道は相当な力でアクセルを踏みこまなければ前進しない。
大きな声で怒鳴り散らすオバサン、お婆さんと言っていい。
何度でも言う。私は重症患者を待たせて急いでいた。
ひとしきりオバサンの説教にもならないヒステリックな罵声を聞いた後、私は運転席を降りた。

「下がって来たのは貴女です」
「な、なんですって!そんな事あるわけないじゃない!」
「注意するためにクラクション鳴らしたんです」
「誰か証人でも居るの?私の助手席の人だって見てたんだから!!」 

二対一か……
私は辺りを見回した。この騒ぎのせいか否か、さっき洗濯物を干していたおばさんは家の中へ引っ込み、犬の散歩をしていたお爺さんは何処かへ消えていた。

「出るとこ、出たっていいんだからね!!」
オバサンはブチ切れている。
キレたいのは私だった。
で、開き直った。

「オバサン、警察呼びたいのは私の方。でもね、今急いでるの。それにどう見てもオバサンの車の損傷は殆どないよね?こっちはバックリだよ」
「だから何よ!そっちがぶつかったんだから直さないわよ!」
「直してなんて言ってないでしょ!ナンバー控えておいていいから、ここを通してよ!」
「……」

そして完璧にキレた。
「オバサン、認知症じゃない?このバックに気付かないなら運転辞めた方がいいよ!」
「なんですって!失礼な」

「認知症!こういうのを老害って言うの!!」
一刀両断だった。
「生意気なっ!」
捨て台詞を残してオバサンは車に乗り込み走り去ってくれた。さっきよりも少しだけスピードを上げて。

その日、病院までオンボロ軽はかろうじて保ったが駐車場でプスプスと停まり廃車になった。レッカー移動代、廃車代はイタイ出費だったが、なんとか主人の処置に間に合った。


後にも先にも他人を「認知症」呼ばわりしたことは、あれが最初で最後だと思う。

私は正しかったと思うが、今も後悔している。
もう少し思いやりのある言葉で説得出来なかったのかと…
「言い方」というのは本当にあると思う。 
また出会えるなら謝罪したい。自己満足で構わない。
ごめんなさい、オバサン。








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