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拡散する31文字を詠みたい

私が短歌を初めて作ったのは高校生の時だった。その処女作は地方新聞の短歌投稿欄に掲載された。

小さい頃から絵本や小説をよく読んでいたせいか、小学生の頃から詩が好きになった。小学校高学年からは親に頼んで ”詩とメルヘン” という雑誌を定期購読しており、詩にも親しんでいたのだけれど、短歌に触れたのは当時大ヒットした俵万智さんの "サラダ記念日”を本屋で見かけて買ったのが最初だった。

"詩とメルヘン" はやなせたかしさんが編集長を務め、選ばれた読者の投稿作品の詩に合わせて、一流イラストレーターさんがイラストを描いてくれたものが一つの作品として掲載される雑誌だった。

宇野 亞喜良さん、渡辺 宏さん、葉祥明さん、飯野 和好さん...憧れの綺羅星のようなイラストレーターさんにイラストを描いて欲しい、、と何度か小学生の私は詩を送ったのだけれど、掲載は叶わなかった。

中学生になると勉強や部活、友人関係で多忙になってきて、雑誌は購読していたけれど、詩を作って送ろうというほどの熱は冷めていた。

そして高校2年生になり、サラダ記念日を読んだ時に衝撃が走った。生活風景や心象を、瑞々しい今の言葉で切り取った歌たちは鮮やかに私たちの心を掴んだのだった。古めかしくて堅苦しい、学校で習った短歌のイメージが鮮やかに一掃された。

短歌の本で280万部という驚異的な売り上げは、その俵万智さんの新しい31文字の世界に魅せられた人がどれだけ多かったかを物語っている。

『この味がいいね』と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

これは31文字の現代詩なんだな、と思った。

これから、自分でも作れるかも、と早速短歌を作ってハガキに書き、地方新聞の短歌コーナー投稿してみたところ、さらっと掲載されたのだった。まさかいきなり載るなどと想像もしてなかったので本名で応募していた。

それは相聞歌で、同じ学年で当時好きだった男子のことを想って描いたものだった。

君が居た空気の名残に触れるため旧教室に行く春休み

たまたま担任のS先生が国語の教師で短歌に関心があったらしく、その記事を見つけた。そして私に無断で教室の後ろの壁に張り出し、朝会でクラスのみんなに紹介したのだった。

新聞の短歌コーナーをコピーした紙には、私の歌と講評に、丁寧に赤ペンで枠線まで引いてあった。

10代の作者の相聞歌。片思いかもしれないが、若々しい叙情がある。

あろうことか、片思いの歌を突然教室に貼り出されるなんて。穴に隠れて一生出て行きたくないほど恥ずかしかった。

でもその先生はとても嬉しそうだったし、もう張られてしまった後だったので先生に抗議はしなかった。今でもその時の "自分の生徒が頑張ってくれた" という誇らしそうな笑顔が忘れられない。

S先生とは25年ぶりに同窓会で再会できたのだが、まだその時のことを覚えていらした。先生達の生徒に関する記憶力には、本当にいつも驚かされる。

私は私で、1作品目から掲載された事に気を良くして、2作品めを投稿すると、また掲載された。

これまでの想い白紙にするように君が走りし土に雪降る

さすがに2作品目は "教室に掲載しないでください" と事前に先生に言いに行った。なんせ片思いの妄想を本人も見るかもしれない(というか、後日年月が経ってから聞いたら見ていた)場所に晒しものにされるのはもう耐えられなかった。

そして、3作品目からは朝日歌壇の全国版に投稿することにした。するとまた投稿した3作品が全て掲載されたのだった。

色褪せた君のラガーシャツ鮮やかに蘇りおり五月雨浴びて
雲の影流れる校庭見下ろせば一夏前の君が駆けている
10m先のあなたの影だけが吾の元にあるグラウンドの暮れ

2首目は、俵万智さんの師匠である佐々木幸綱先生に、年間秀歌にも選んで頂け、2冊の朝日歌壇の秀歌選本にも掲載して頂いた。

そしてなぜか、私は相聞歌(恋愛に関する短歌)しか詠めなかった。

今でもたまに思い出したように詠んで見るのだが、同じようには詠めない。あの時、淡い片思いだったあの時の感性だけが、この瑞々しい叙情を生み出したんだろうと思う。

その瞬間の想いを、光景を、31文字に凝縮して閉じ込める行為は、いま思えば私にとってデザインと通じるプロセスだった。

表現したいことに対して、相応しそうな材料をどんどん並べて、構成してみる。そこから足しては削り、整えてまた削る。

最終的に削りきってその感情を表現しきれているか、受け取った人の心の中で、その人の心に合わせて充分に拡散して、何か余韻を残してくれるものを作れたらいいな、と昔の作品を見直して改めて感じたのだった。

次回はもう少し相手との距離が近い相聞歌を投稿したいと思う。短歌を普段から鑑賞するわけではないけれど、自分の感情の発露の手法として、短歌の、たった31文字というサイズ感はとても心地いい。

しばらく詠んでなかったけれど、少し内面に向き合って今の自分の感情を詠んでみようと思う。


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