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わたしとキミとTシャツと。

「ピンポーン」

週の初めからくしゃみを連発し、仕事の繁忙期に入って、今日の夜ご飯はおやつに買ったベーコンエピだっ!なんてやけくそになって、ちょっと泣きそうになっていた夜に、我が家のチャイムが鳴った。

玄関のドアを開けると、見覚えのあるボーダーの半袖Tシャツを着たマイトレーナーが立っていた。

「外、めっちゃ寒いね」

いやいやいや。なんで半袖のTシャツなんか着ているのよ。

心の中でそう突っ込みつつ、あの冬の暑い日の記憶が蘇った。

初めての海外まで一人旅の行き先に選んだのは、中米パナマだった。理由はただひとつ。好きな人に「おいで」と言われたから。

彼の誕生日のちょうど1週間後に到着する予定の航空券を取ったその日は、今くらいのちょっと肌寒くなってきた頃で。それでも彼の地は暑いというから、とびっきりかわいいと一目惚れしたそのTシャツを購入した。

やっとの思いで、でも軽々とパナマへ到着したものの、いざとなるとプレゼントを渡すのが恥ずかしくなってしまって。なんでもない中日に、荷物を整理するフリをしてこっそり渡したあのTシャツ。

そんな、ちょっぴり甘酸っぱいあのTシャツを着て登場したのだ。

あれから2年と半年も過ぎたというのに、いざ目の前でそのTシャツを目にすると、やっぱりなんだか恥ずかしくなってしまって

「そうだね。秋だね。」

なんて、かわいげもない返事をしてしまった。学生から大人になって、わたしのズボラな性格もついに隠せないレベルまで達したというのに、相変わらずなんの成長もしていない自分にびっくりしてそのまま眠ってしまった。

今朝、洗濯ものを干しているとあのTシャツが洗濯機の中から出てきた。(わたしがあげたこと、覚えてなかったらとんだ自意識過剰だよな)だなんてことをぐるんぐるんと考えながら、でもボソッと呟いた。

「これ、なつかしいね」

すると、わたしに分かるよう、視線の先でゆっくりとキミはこういった。

「んね。まだ、現役だよ」

あまりにも疲れきって泣きそうになっていた夜に、あのTシャツをチョイスして現れたところも、恥ずかしがってなかなか話題に出せずにいたことも全てお見通しだったのかと思うと、やっぱり、キミはとことんずるい人なんだろうな。

そんなことを思いながら、Tシャツをハンガーにかけた。

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